令和6年度建築物のロングライフ化に資する研究支援事業の支援対象の選定について

建築物のロングライフ化に資する研究支援事業の支援対象(令和7年3月論文提出分)を公募した結果、5件(内、修士課程5件)の応募があり、これらを対象として令和7年1月23日に下記の選定委員会にて審査し、3件の研究を支援対象として選定いたしました。

●選定委員会
 委員長 坊垣 和明 東京都市大学 名誉教授
 委員  伊藤  弘 一般財団法人 日本規格協会 スタンダード・コンサルティングセンター 
           フェロー
     北山 和宏 東京都立大学 都市環境学部 建築学科 教授
     輿石 直幸 早稲田大学 理工学術院 教授
     国本  勇 株式会社大林組 建築本部本部長室 担当部長
     白井 清広 BELCA専務理事

●選定論文
審査の結果、以下の研究を選定しました。

BIM統合型メンテナンス業務支援システムの開発と有効性の検証
 森脇 篤史 東京都立大学大学院 都市環境科学研究科 建築学専攻 修士課程
環境負荷軽減に貢献する低炭素型コンクリートの力学特性と耐久性の評価
 鈴木 南都 東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 修士課程
定期報告に基づく防火設備の維持管理と作動信頼性の分析
 佐々木 涼太 東北工業大学大学院 工学研究科 建築学専攻 修士課程

●選評

総評
 建築物のロングライフ化に資する研究を支援する本事業は、平成16年度(2004年)に開始され、第12回、13回は数年の間隔をあけての実施となったが、今回は昨年に続いて連続開催となった。
応募件数は5件で過去最少ではあったが、甲乙つけがたい優秀な論文ばかりであったと感じる。分野別では、構造・材料に加えて、維持管理・メンテナンスに関わる論文が3編あり、イニシャル(建設段階)に劣らずオペレーショナル(運用)の重要性を認識させる論文が多かったことは、ストック時代にふさわしい傾向として歓迎したい。
 応募された論文は、審査委員全員による一次審査(3段階による評価)を経て検討した結果、3件を支援対象とした。これら3件は、全委員の評価結果を指標化した比較においても上位3位に入るものであり、各委員の評価コメント等を含めて慎重に審議し、審査員の全員一致で支援の決定に至った。これらの論文は、新規性に富み確実な成果が期待されるもので、建築物のロングライフ化への貢献が高く評価されたものである。
 応募件数が伸びなかった要因は明確ではないが、しばらく間隔があいたことで認知度が落ち、それがまだ回復に至っていない、あるいは、旧来の周知の仕方(建築系学科の事務室に送るなど)では教員個人に届かず見逃されているのではないか、などが考えられる。次の機会には周知方法を見直すなどして、応募増を期待したい。また、本年と同様に幅広い分野からの応募を期待したい。
最後に、応募いただいた学生並びに指導教官の皆様に御礼申し上げるとともに、建築物のロングライフ化に向けた引き続きの活躍・貢献を祈念したい。

(選定委員会委員長  坊垣 和明)

選評
 ①「BIM統合型メンテナンス業務支援システムの開発と有効性の検証」
 本研究は、タイ・バンコクに所在する大型病院施設を対象として「施設管理業務の効率化とデータ管理の高度化を実現する」ために、BIMと統合されたメンテナンス業務支援システムを開発し、その有効性を検証することを目的としており、以下の研究手順が示されている。
  1)BIMと統合したメンテナンス業務支援システムの設計
  2)同システムの試験運用により,メンテナンス業務における効果を検証する
  3)効果の検証結果を踏まえ,同システムの最適化を図る
 「メンテナンス業務支援システム」はメンテナンス業務のDX化の中心的な役割を果たすものです。併せてBIMデータもその活用が期待されており、取り組もうとしている課題は幅広く多岐にわたっている。限られた研究期間、限定された施設、期間が限定されたメンテナンスデータ等、制約が多いので、実用性を重視したシステム設計、効果の検証対象の的確に絞り込みなどに留意して、次の研究に繋がる成果を期待したい。
(委員 伊藤 弘)

 ②「環境負荷軽減に貢献する低炭素型コンクリートの力学特性と耐久性の評価」
 低炭素型社会の構築に向けて、製造時に大量のCO2を排出するセメントの一部を産業副産物で置換した低炭素型コンクリートの研究が行われているが、中性化など耐久性上の問題が指摘されている。
 本研究では、これまでにセメント使用量を95%以上、CO2排出量を90%以上、それぞれ削減した低炭素型コンクリートを実現しているが、その実用化にはコスト面や高温蒸気養生が必要などといった課題があった。今回は、高炉スラグ微粉末を60%、フライアッシュを30%、シリカフュームを5%用い、普通ポルトランドセメントを合計95%まで置換することによって、CO2排出量だけでなく、コストも削減した実用的な低炭素型コンクリートの開発を目的としており、圧縮強度のほか、乾燥収縮、自己収縮、中性化速度、凍結融解抵抗性などを評価項目とした実験を行い、耐久性の改善を目指している。また、海洋生態系が光合成によって炭素を蓄積する藻場ブロックの開発も視野に入れている。
(委員 輿石 直幸)

 ③「定期報告に基づく防火設備の維持管理と作動信頼性の分析」
 大地震時に同時多発する火災や強風時の大火は甚大な被害をもたらすことから、それらの防止が肝要である。そのためには個々の建物内に設置された多数の防火設備が有事に際して安定して作動することが必要である。本研究は防火戸や防火シャッター等の可動式の防火設備を対象として、公表された定期報告書をもとに不具合の発生可能性や火災時の作動信頼性を定量的に明示し、それらの効果的な維持保全手法を構築しようとするものである。
 具体には、信頼できる情報を取得できた複数の公共建物について防火設備の不具合の発生状況とその保全行為の実態を経年的に分析する。それに基づき防火設備の経年劣化等による不具合発生の類型化とその作動信頼性を明らかにする。これらは防火設備の維持保全の観点から有意義な情報を提供し、既存建物のロングライフ化に貢献するところが大きいとして高く評価された。本研究をさらに発展させて、デジタル技術やAIを活用した効果的な予防保全手法の提案に至ることを期待したい。
(委員 北山 和宏)

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