瀬戸永泉教会│第34回BELCA賞

建物外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

礼拝堂
礼拝堂~廊下
エクステリア

選考評 ―Selection Commentary―

焼き物で有名な、日本遺産のまち瀬戸市の中心部に建つ小さな教会の増改築である。愛知県内の現役木造教会としては最古であるが、築100年を超え老朽化が激しく手狭で、段差も多く、高齢化が進む教会員が利用しづらい為、新しい礼拝堂の建設が2006年から検討されていた。2010年に礼拝堂が国登録有形文化財に登録され、2017年からは本格的調査・検討がなされ教会員全員で熟慮を重ねた結果次のような基本方針が決定された。

①東南海地震に備え文化財である礼拝堂は現在の位置で早急に耐震改修を行う。
②過去増築されたプレファブ群は撤去して増築棟を新築し利便性向上と公開性を高める。
③敷地全体と建物内部をバリアフリー化し地域と高齢者に優しい教会とする。

教会員による修繕積立金や寄付金によっての計画であり、新築建屋を含めて4,500万円の予算内でできることを教会員全員が納得するためにワークショップの実施等を重ねて計画を決めていっている。この際に設計者が教会員に寄り添い丁寧な対応していることがこの計画が実現した要因と言えるだろう。

本建物は、1900年竣工の礼拝堂、1978年竣工の教会学校館(CS館)、今回の増築等の3棟で構成されているが、確認申請上は、1棟扱いで解いている。増築棟に新玄関を配置し、外部及び全部屋をバリアフリー化、CS館も車椅子が通れるよう廊下を広くし、全体の機能性向上が図られ、外周の塀も撤去され車の寄り付きを確保するなど、地域への開放感が高まっている。

耐震化の実施は、当時の木造建築の良さを最大限生かしつつ土葺きの瓦葺きを構造合板使用による乾式桟瓦とし、壁面内部の脆弱な筋交いを、構造用合板で全面補強を行うなどの耐震補強を文化財保護も考慮しながら実施している。見た目は内部・外部共に現状維持としながら、Iw値1.14を達成する耐震改修案となっている。尖塔窓と六角窓は昭和初期改造時の色と推定される明るい薄緑色に復元されており、尖塔部の横軸回転機構を復元することで法的排煙性能を確保でき、安全性向上に寄与している。

温熱環境や省エネに関しては、日曜日の午前中のみ使用される礼拝堂にどの程度のコストをかけて計画するかの判断が難しいと思われるが、使用時間が少ないことから最低限(床の断熱化と隙間塞ぎ)を実施としている。結果的に南北面の土壁が断熱材に置き換わったことや外皮面積が減ったこと、照明LED化等により工事前に比べて年間電気消費量は全館合計で総面積増にもかかわらず約30%(教会15%)削減が達成されている。

教会員の方々等関係者全員の総意で出来上がっており、短期・中期・長期と次の100年に向けて大枠の将来計画が検討されている。 事業主(維持管理者は同じ)・設計者・施工会社がそれぞれの熱意をもってこの計画を実現して完成し、今後も長く運営されると思われる。小規模の建物であるが、ロングライフビルの表彰にふさわしいと建物と言える。

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