求道学舎│第34回BELCA賞

建物外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

玄関
居室内
建物外観

選考評 ―Selection Commentary―

求道学舎は、近代建築の先駆者である武田五一による設計で、浄土真宗の学生寮として1926年(大正15年)に完成した。日本に現存するRC造共同住宅は、長崎県軍艦島に残っている7階建ての30号棟であるが、実際に人が居住している共同住宅としては日本最古の建物である。73年間は寮として使用してきたが、1999年(平成11年)に閉鎖され、しばらくの間空き家状態となっていた。2004年(平成16年)に再生事業が開始され、解体して新築分譲する案や既存改修して賃貸として貸し出す案などが検討されたが、敷地の接道条件や工事費が嵩み収益性の確保が難しいことが分かり、一定期間長期に住んでもらう人に建物を譲渡し、その住人らに改修資金を負担してもらう「定期借地権」+「コーポラティブ方式」+「中古改修」という3つを合わせた事業スキームにより再生が実現した。

5.46mの正方形グリッドに寮室2部屋で構成されていたプランを、スケルトンインフィル手法にて10戸の住戸に改修され、1住戸ずつ丁寧にコミュニケーションをとりながら計画が進められた。元々ヨーロッパ水準の高い階高であったことから、現代水準のインフィルと設備機器が投入することができ、居住者にとって満足度の高い住戸が整備されていた。

定期借地権の期間は62年で設定されているため、2068年(令和50年)まで耐久性が維持できるよう外壁改修、耐震改修、断熱工事などが行われている。特にコンクリート躯体の中性化や鉄筋の錆など劣化が進んでいた箇所については丹念に補修が施され、RC壁の増し打ちや開口塞ぎなども行うことによりIS値0.6以上が確保され、第三者機関の評価も取得されていた。また、給排水、電気設備はシャフト内、床下スペースに設備され容易に更新できる構造となっており、更に樹脂管を採用することで耐久性も考慮されている。また、外観を損なわない仕様でのサッシガラス断熱改修が行われ、省エネ性にも配慮されている。

維持管理計画については、30年間の維持保全計画が作成されており、毎年管理組合にて総会が開かれ健全な運営が行われていた。途中、修繕積立金の不足が懸念されることから積立金の増額が議論となったが、コーポラティブ方式のためか、メンバーが建物や周辺の緑に対する価値に共感されていていることから異論なく了承されたとのことであった。 現地審査では、2つの住戸を見せて頂いたが、画一的な集合住宅とは違い、それぞれのライフスタイル、ワークスタイルに合わせてとても快適に過ごされており、心の豊かさのようなものを感じた。また、この歴史的な建物や保存樹木に対する愛着も強く、ほぼ入居当時のメンバーが所有し続けているということだった。このように歴史的な建築の価値に共感する人たちが資金を出し合って、新しい価値を生み出すことで、価値ある建築物が保存されることは素晴らしい取り組みだと感銘を受けた。