九州工業大学 鳳龍会館│第34回BELCA賞

建物外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

中庭からの外観
学術交流ホール
ランゲッジラウンジ(コミュニケーションスペース)

選考評 ―Selection Commentary―

学校、特に大学を取り巻く社会的環境はこの数十年で大きく変化してきた。団塊世代とそのジュニア世代の山を越え、経済発展と国際化の流れやICT化による学問や研究のフィールドの変化への対応も迫られている。産業構造の変化と各産業への従事者人口の変化も大学に求められる研究や教育に影響が大きい。

生き残りに試される力は順応力や対応力であり、変わることでその力を発揮する事物と、変わらずに継続することで逆に順応する事象があるのかもしれない。後者にはその価値に対する一定の評価が伴っているはずである。いわば他の大学にはない、固有のもの、独自性とか、ストロングポイントとか、アイデンティーと呼ばれる類のものかもしれない。良質なストックはまさにそのような存在となりえるのではないだろうか。だだし、そこにはそのストックに対する使われ方の転換や維持する知恵が必要なのかもしれない。

九州工業大学 鳳龍会館は言わずと知れた清家清の名建築である。キャンパス内東隣には鳳龍会館と正対する形で「講堂」が同じく清家清の設計で鎮座している。この二つの建築が往年のキャンパスの中心的な軸を跨ぎ、本館への強い求心性を作り出していた。今回の改修ではコンクリート躯体を残し、外装サッシュを含めほぼ全てを改修している。内外装含め、ディテールに至るまで原設計の意図を忠実に再現している。ほぼ文化財再生に近いレベルと感じた。それにも増して注目すべきは、新築時より内部間仕切りが整理されていることである。キャンパスの歴史を感じる高い木立の中で、より透明感の高い空間を創出している。これは対角線上の梁で組まれた正方形ユニットの躯体による大開口を最大限生かした結果でもある。

内部間仕切りの整理は木立との調和も意図されていたと実感できるが、一方では内部の機能の変化によるところもあると感じた。国際色が濃くなり異文化交流の場、外国語によるコミュニケーションスペースとしての用途は従前の機能から大きく転換されている。つまり、機能転換を機により建物の価値向上を実現できていると言える。変えるものと変わらないものの両方を好転させる力を感じた。もう一つ、往年の中心軸がキャンパスの機能更新に伴い、鳳龍会館の西に移動していることに対してもこの建物の存在が貢献しているのではないかと感じた。鳳龍会館にとっては偶発的かもしれないが、マスタープラン上もその意図は十分に読み取れる。つまりマスタープラン作成者への影響力も大きかったと思われる。

空調設備は、ガスヒートポンプチラーと床置きファンコイルユニット、全熱交換器を採用し、省エネ化を図りつつ、当初の形状に合わせて意匠性を損ねることなく上手く組み込まれている。スペースチャージという課金システムを全国に先駆けて採用し、維持修繕の費用を確保している点も高く評価したい。

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