広島県庁舎本館、南館、議事堂、北館、農林庁舎

第33回BELCA賞 ロングライフ部門

建物群全景
本館外観
エントランスホール
執務室
エレベーターホール・廊下
講堂
議事堂外観
北館外観
農林庁舎外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 広島県庁舎の本館・南館・議事堂は、広島の戦災復興の象徴的建造物として1956年に竣工。戦後の焼け跡からの復興にあたり、11年もの歳月を経て庁舎再建を果たすこととなる。安価で早急な新庁舎整備が求められた時代背景により、軟弱地盤に対し杭なしで中層建築を成立させる浮函工法、主要事務室を南面させた効率的な並列配置が採用されている。その後北館が1969年、農林庁舎が1966年に建設されている。これら庁舎群は、広島都心部における周辺市街が大きく変貌する中、伸びやかなモダンデザインの庁舎として、時代のニーズに応え、県政を支え、長く県民に親しまれてきている。また当時植樹された県庁の森の木々も大きく成長し、都心の貴重な緑化空間として景観に潤いをもたらしている。

 本改修計画は、防災拠点機能を強化することを主眼に耐震補強、液状化対策、防潮対策を中心に実施されている。特に庁舎を利用する市民にとって最も馴染んだ光景であるエントランスホールでは、1対の柱の間に門型の壁柱を二か所付加することで耐震補強を成立させ、朱に塗られた独立柱のスケール感やリズム感を損ねることなく、この象徴的でパブリックな空間の質を維持していることは印象深い。また、窓面の遮熱フィルムや断熱材追加といった熱負荷対策や節水型便器・照明人感センサーの採用等、同時施工するメリットのある内装や設備の改修もあわせて実施している。一方、災害対策としては受変電設備の北館屋上への移設は計画段階であり、各棟で実施された劣化診断において更新を推奨するとされた部位や設備等も多く残っているが、施主・設計者・施工者が一体となり優先順位を明確化した上で、長期に渡りたゆまぬ維持管理と改善の努力を継続されていることは特筆に値する。

  全国自治体において、庁舎の長寿命化は必須の取組みとなっており、限られた予算の中でこれら課題の解消は容易ではないと思われる。本庁舎の耐震改修工事における様々な取り組みは、庁舎建築の長寿命化の代表的な事例として、多くの自治体のモデルとなることが期待される。また、近年は、広島県内の建物一斉公開企画イベント『ひろしまたてものがたりフェスタ』において、広島県庁舎の館内ツアーが企画されるなど、広くモダンデザインの建物の魅力が、積極的にアピールされている。市民にとってのプライド・オブ・プレイス、「貴重な時代の証人」という都市における歴史的存在感といった多重の価値の源泉に敬意を払い、これを守り次世代に渡そうとする姿勢を高く評価したい。

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