髙島屋東別館│第34回BELCA賞

建物外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

ホテル客室
1階フロントロビー
アーケード

選考評 ―Selection Commentary―

髙島屋東別館は1928年に松坂屋大阪店として開業し、1940年まで複数回の増築を重ねられてつくられた、戦前における国内最大級の百貨店建築であった。百貨店としては短命で、戦後GHQに接収され、1966年に髙島屋に譲渡され、しばらく事務所用途として利用されてきたが、外観は、創建当時の意匠が今日まで保たれてきた。設計者は鈴木禎次であるが、数多くの建築作品は戦災により破損、滅失している中、この建築はほぼ完全な状態で残されており、当時のデザインや技術を知る上で極めて貴重な存在である。

しばらくの間、保有資産の価値を有効に活用できていないという課題を抱えていたが、髙島屋グループ総合戦略「まちづくり」の中でもうたわれている「地域との共生をめざすことでまちをつくり、ともに成長する」という方針に基づき、ホテルを主体とした複合施設へのコンバージョンが決まり、歴史的・文化的価値の保存へつながった。

建物は、地下3階地上9階の構成を維持し、地上部はインバウンド需要に応える外資系ホテル313室と髙島屋の歴史を展示する史料館、事務所からなる。街との結節点となる1階には、フードホールを展開し、大阪の食文化の魅力を幅広く伝え、賑わいを創出する工夫がなされている。改修に当たっては、可能な限り既存建物の歴史的な価値を感じられるように工夫がなされ、設備更新や機能上改修が必要な個所においては、既存意匠を損なわないような改修が行われていた。

外装は、これまでも定期的に補修が行われており、保存状態は良く、今回の改修においては、更なる長寿命化のための外壁補修と開口部の断熱、遮音、水密、耐風対策として鋼製建具をアルミサッシに更新されていた。その際にも、外壁の損傷を防ぐため、細縁タイプでカバーリング工法にて施工され、ファサードの印象を変えずに丁寧な施工がなされていた。また、ライトアップ照明などには現存している創建時の照明器具を継続使用して、外観は原形を保ちつつ、光源をLEDとし、印象を損なわないよう照度・色温度を適切に調整して当時の状態を復活させている。維持管理面においては、歴史的価値を現存させるために、施工者や調査関係者が策定した「維持保全計画書」「改修工事報告書」「保存活用計画」の情報に基づく管理が、日々実践されており、このような体系的情報整備と将来の明確な活用計画の策定などの取り組みが高く評価され、2021年には国の重要文化財指定を受けている。

髙島屋東別館は、第二次世界大戦と戦後の混乱期を乗り越え、多くの人々に愛されてきた建築であり、百貨店として賑わっていた当時を思い起こすことが出来るほど、当時の姿を変えることなく存在している。

開業直後はコロナ禍で厳しい状況ではあったが、現在はホテルの稼働率も高く、多くの宿泊者から評価を得ているということであった。また、月1回開催されている館内ツアーは大変人気で、百貨店時代の当時の最先端のデザインと技術を各所で見学することが出来る。 このように、新しい役目が与えられ、多様な価値や魅力を発信している姿はまさにBELCA賞に相応しい建築と言える。

ページ上部へ