シャトレ信濃町│第34回BELCA賞

建物外観
バルコニー

建築物概要 ―Outline of Architecture―

居室
屋上

選考評 ―Selection Commentary―

循環型社会への転換の重要性が叫ばれるようになって久しい。社会的、歴史的、そして建築の意匠性や建築史的意義の高い建物や建造物を後世に残すとこでその重要性の理解を深め、その概念が根付くには相応の時間が必要であったのだろう。本来、循環型「社会」とはあくまでも「社会」であり「建築」ではない。有名建築が保存再生されることが社会の目的ではなく、いわば「どこにでもある建物」が長く使い続けられることに意義があると考える。それもより良質なストックとして残されることが重要ではないだろうか。

シャトレ信濃町は、1971年に新築された共同住宅で、SRC造9階建ての高層棟とRC2階建ての低層棟からなる。現在の都市計画では、用途地域は中高層住居専用地域となっており、集団規定上同規模の建て替えが困難であった。その中でのリノベーションの選択となった。

耐震補強として、構造上不要な雑壁、バルコニー手摺壁等を撤去、軽量化すると共に、住環境に影響のない位置に耐震壁を設置している。既存不適格を維持した状態で、大規模な模様替えによる確認申請を提出し、建物規模は従前と変わらない状態で検査済証を取得した。

居住性向上を目指し、天井裏に粒状衝撃音低減材を使用し遮音等級2ランクUPが図られ、屋上、外壁の断熱及び断熱性の高いサッシに取り換えることにより断熱性能、省エネ効果を向上させている。

シャトレ信濃町には丁寧な設計と施工に基づいた素晴らしい「建築」としての竣工当時以来の存在を感じずにはいられない。それは所有者の場所への愛着や残され続けてきた庭への強い思いからも伺える。

それらの素質を十分に備え、その思いに応える多くの耐震性能確保に向けた知恵と工夫は「建築」としての新しい魅力を付け加えるに充分であった。耐震改修の名目のもとにあからさまな補強を容易に許さず、軽量化という新しい発想で外観に逆説的な美しさを加え、シンボリックな塔状構造体を引き立てることで、従前の愛着心をさらに深めているようにさえ感じた。 多くの歴史的建築物が用途や機能を変えてでもその存在を保つことに意義を見出しつつある現在、その用途や機能の維持と建物の活用の両立の難しさを皮肉にも露呈させている。住宅を商業施設に転換する試みも確かに多いが、その点では住宅機能は構造的に多用途への転換が難しい側面がある。シャトレ信濃町は、その意味でも住宅という用途転換のむつかしさを超えて、ここまで見事に住環境の向上を含めた価値向上が実現できていることは驚きであった。

ページ上部へ