山荘 京大和│第34回BELCA賞

建築物概要 ―Outline of Architecture―
表 彰 部 門 | ベストリフォーム部門 |
建物所有者 | ㈱竹中工務店 ㈱京大和(料亭運営者) |
改修設計者 | ㈱竹中工務店 |
改修施工者 | ㈱竹中工務店 |
所 在 地 | 京都府京都市東山区高台寺枡屋町359 |
竣 工 年 | 送陽亭:1800年頃(江戸後期) 翠紅館:1915年(大正4年再築) 胡蘆庵・翠紅庵:1918年(大正7年) 山門・待合:不詳 |
改 修 年 | 2019年 |
改修前用途 | 料亭 |
改修後用途 | 料亭 |



選考評 ―Selection Commentary―
計画地は、京都・高台寺の南側に位置し1949年(昭和24年)にこの地に開業した料亭「山荘京大和」が70年以上にわたり日本料理とともに芸舞妓によるもてなしやお茶会など、親しまれてきた場所である。現在の敷地内の歴史的建築は江戸期から大正期にかけて創建されている。しかしながら経済環境の変化により婚礼・宴会需要が長期的に減少し、歴史的な建築と広大な庭園を維持することが困難になってきていた。この歴史ある場所の魅力を次世代に引き継いでいきたいという京大和の思いを受けて、竹中工務店が事業主として土地を借り受け、RC造の宴会・料飲施設を除却した跡に、外資系高級ホテルを誘致することで安定的な収益を確保し歴史的な建築・庭園と料亭文化を未来につなぐことを目指している。
ホテル棟の建設を機に、敷地内の3つの茶室の再配置と料亭の厨房・後方諸室の地下化により、①機能性の改善、②庭と建築の関係性の強化、③ホテルと連携した新しい体験の創出に意を用いてリフォームを進めた。維持管理に多額の費用のかかる料亭の歴史的な建築・庭園を未来にわたって残していくためのこのプロジェクトの企画・実施が秀逸と評価された。
2つの茶室「胡蘆庵」と「翠紅庵」(1918年(大正7年))は東山斜面の土砂災害特別警戒区域内にあり、土砂災害により歴史的な建物が被害を受ける危険性が年々高まっていた。そこで2つの茶室を平坦で安全な位置にある茶室「送陽亭」に隣接するように曳家により移設し、茶室があった傾斜地に擁壁とホテル棟の躯体が一体となった対策工事を行うことで、土砂災害特別警戒区域の指定が解除され、地域防災にも寄与している。
茶室「送陽亭」(江戸後期)は、阪神淡路大震災の影響で基礎が不同沈下していたため、吊家により平地の作業スペースに仮移設したのち、地盤・基礎の補修をし、当初の位置に再設置された。従前は地上部にあった料亭「翠紅館」(1915年(大正4年))の厨房や後方諸室を地下化することにより、料亭の東山斜面側に近接する部分を庭園に戻し、料亭創建時にあったと伝わる瓢箪池が復元された。歴史的建築の佇まいの維持と耐震性能の向上を両立させるために様々な工夫がなされている。根固め、仕口ダンパー、コンクリート製布基礎による耐震補強に加え、実験により土壁を限界耐力計算により評価し、現行基準以上の耐震安全性を確保している。補強土壁の小舞竹に塗る荒壁土は、解体によって発生した既存土壁の土に藁簾を練り混ぜた土を用いている。
建築設備においては、空調、照明、防災設備は新設されており、照明は既存器具を修復再利用、LED化することで歴史性、意匠性、省エネ性に配慮されている。空調設備は景観および室内の意匠性、快適性に配慮されている。
京都市より歴史的建築物に指定されている料亭と3つの茶室は江戸~大正期の創建であるため、改修にあたり現行の建築基準法を満足していない項目について、建築審査会にて耐震・防災改修の内容が安全上十分な性能を有することが認められ、建築基準法の適用除外を受けている。また、維持管理においては、維持保全計画書をもとに、建物所有者、料亭運営者、ホテ ル事業者、ホテル運営者にて「事業運営及び施設管理協定書」を締結し取組まれている。