歳吉屋-BYAKU Narai-

第33回BELCA賞 ベストリフォーム部門

フロント
レストラン
バー
客室(百一)
客室(百二)
客室(百三)
客室(百四)
大浴場

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 歳吉屋は、中山道のほぼ中央に位置する奈良井宿の古民家「杉の森酒造」を、宿泊施設・レストラン・バー・温浴施設等へ用途転換した小規模複合施設である。

 奈良井宿は、かつての面影を色濃く残す伝統的な街並みが約1kmにわたって連なっており、1978年には重要伝統的建造物群保存地区として選定されていた。そのほぼ中央に位置する歳吉屋は、街道沿いに7間の間口を有する木造2階建ての母屋(1793年)と、奥には江戸後期に建てられた家財蔵・味噌蔵・酒蔵などを有し、約200年に亘って「木曽五大名酒」の造り酒屋として歴史を刻んできていた。

 施設の整備にあたっては、地域の森林資源の利活用を進める「塩尻市森林公社」と協同して、歴史的建築資源や自然資源の活用を軸とした持続可能なまちづくりや地域課題の解決の目標を掲げ、塩尻市と連携協定を締結したうえで事業の推進をはかっている。

 具体的な改修方針として、外観の保存と建物の基本性能(耐震性・温熱環境・防火性能・遮音性など)の改善を行っている。耐震補強としては、合板耐力壁、ブレース設置、RC基礎の増設によって現行の耐震基準を満たしている。また施設の長期使用を念頭において用途変更による確認申請を実施しており、耐火間仕切りの設置や排煙、採光の整理など、こちらも現行法規を満たすよう改修されている。ただしこれらの取り組みは独創的で、江戸時代の商家の特徴的な空間構成や文脈を読み解きつつ、8つの客室それぞれに異なるデザインテーマを展開している。また、それぞれの客室へのアプローチは、フロントを経たのちに一旦外庭に出てから別々の玄関に向かう、という演出がされており、個性的な客室デザインとあいまって、“訪れるたびに驚きや新しい発見を”という設計者の意図の具現化に成功している。

 くわえて、街に開くことができるフロント、宿泊客以外も利用可能な味噌蔵を改修したバーや大浴場を整備するなど、地域の活性化さらには宿泊客と地域をつなぐ公共性の醸成、を目指している点を大いに評価したい。大浴場では信濃川源流の山水を利用することで水道水の節水を実現し、熱源として木質チップを利用したバイオマスボイラーを採用するなど、地域の林業活性化にも同時に貢献している。

 事業の枠組みとしては、既存の商店や宿と競合しない業態や価格設定として奈良井宿全体でより幅広い客層に拡張展開していくことを志向し、持続可能なまちづくりという視点を貫いている。これらの事業計画と連動させた20年間の長期保全計画も作成されており、歴史的建造物を使い続けて価値を高めていく街づくりのモデルケースとして力強く情報発信を続けている。

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