祇園甲部歌舞練場│第34回BELCA賞

建物外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

建物外観
劇場
渡り廊下

選考評 ―Selection Commentary―

祇園甲部歌舞練場は、京都の春の風物詩「都をどり」の専用劇場兼、祇園甲部の花街に所属する芸子・舞妓の稽古場である。1913年(大正2年)創建、2001年(平成13年)に国登録有形文化財に指定されている。耐震性の問題から2016年(平成28年)以降、休館を余儀なくされていたが今回の改修工事により2023年(令和5年)2月に再開場を果たしている。今回の改修工事の概要は次の通りであった。

①劇場の客室・舞台を含む本館及びそのエントランスである玄関棟の耐震補強
②空調・電気設備の更新及び伝統伎芸を再現するための舞台設備の更新
③既存部材の再利用による内部空間の復元
④稽古場である技芸学校を本館に接続した形式で増築することによる機能更新。

本館及び玄関棟の大屋根は創建当時の姿を現在まで保っていることが写真資料から確認できたため、大屋根の解体は行わず、内部空間から補強を行うことで大屋根の形態は工事前の状態を保存している。木造部分を極力生かしながら、新設の鉄骨を組み合わせたハイブリッド高架を構築している。鉄骨補強部材は小屋根裏空間と客室周囲のホワイエ・廊下に配置し、内部空間についても改修前の姿を保存する計画となっている。また、内装は既存内装部材の「活かし取り・再利用」を前提に内装解体が行われ、耐震補強後もとの場所に再取り付けを行うことで空間が復元されている。

空調設備は、全て撤去更新されている。改修前はダクトが室内露出であったが、すべて隠ぺい化された。改修にあたり温熱気流シミュレーションでの検証を行い、誘引ファンの設置や最適な空調ゾーニングを行い、寒暖差の解消を行っている。空冷ヒートポンプチラー+外調機(全熱交換器)+FCU+空冷PAC方式で、省エネ性と快適性を実現している。

照明設備は、全て撤去更新されている。改修前は意匠性に問題があったが、光源と器具寸法の見直しを行い美しい光を実現した。

「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」を活用し、建築基準法の適用を除外した。条例の適用に対して、安全確保のための代替措置として、スプリンクラーや補助散水栓、ドレンチャーの設置、屋外消火栓強化などハード面の措置、「所有者の運用も含めた避難・防災計画の策定」などソフト面の措置が実施されている。維持保全計画の実施においては、構造部材や屋根・外壁などの定期点検計画も策定されている。

京都という場所柄から地域社会との共存は重要なポイントであるが、地域の象徴である歌舞練場の大屋根の存在を周囲から感じられるように、増築する技芸学校の棟レベルが本館の軒レベル以下になるように計画されている。また歌舞練場は祇園町の小さなスケールの街並みに対して、ひときわ大きいことから、技芸学校建屋のボリュームを分節することで周辺の街並みとの調和が図られている。

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