旧山口萬吉邸(kudan house)

第33回BELCA賞 ロングライフ部門

エントランス
サービステラス
応接室
1階居間
地下室(多目的スペース)
スクリーンポーチ

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 旧山口萬吉邸は、昭和2年に自邸として建設された。設計は、内藤多仲、木子七郎、今井兼次らの当時を代表する建築家の協業で、当時米国で流行していたスパニッシュ様式が採用されており、創建当初の風合いが現存する貴重な近代建築である。

 建物所有者は、この貴重な建築資産をなんとか守りたいという強い想いから、所有者、事業者(維持管理者)、設計者が一体となって事業化を進め、建物の歴史的価値を活かした有効活用ができる運営・維持管理のスキームをまとめあげた。具体的には、「会員制のビジネスイノベーション拠点」として、普段のビジネス環境とは質の異なる歴史的な空間で働いたり、顧客との打合せが出来る創造的オフィスとして活用され、すでに順調に運営されている。更に、地域の学校の生徒への公開や、アーティストを招いた展示など、地域交流や文化発信としても積極的に活用されており、歴史的な建築物を次世代に継承していこうとする努力が伺えた。

 建築の改修では、まず安全性の向上として、新耐震基準を上回る耐震性が確保され、ピンニング工法による剥離、剥落のない外壁補修が行われており、その上で、快適性、機能性向上を図るための改修が行われている。特に設備改修では、建設時から埋め込みダクトによる自然換気システムが各室に設置されていており、その換気機能を試験で確認したうえで、さりげなく有効活用をされている。このシステムは90年以上経過する建物の保全にも役立ってきたと言える。また、空調設備は、最新の空冷ヒートポンプエアコンに更新されているが、エアコン室内機や送風吹き出し口は、家具の中や壁の中に設置され、快適さの確保とともに意匠に影響を与えないように工夫がなされている。照明器具は、当時の意匠を維持し、電球のLED化により省エネを図っている。

 このように、設備を集約化したことで、地上階とは異なった魅力的な空間が地下に生まれ、そこへドイツ製の石炭ボイラーを保存することで、当時の雰囲気を醸し出している。意匠と設備の融合した見えない設備というコンセプトに基づき、当時の意匠を可能な限り残していこうとする工夫が随所に見られた。  本プロジェクトのように事業化することにより、価値のある近代建築が保存されるということは、本当に素晴らしいことである。このような好事例を参考に、各地に眠る歴史的な近代建物が数多く保存活用されることを願っている。

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