西本願寺伝道院は伊東忠太の設計、1912年竣工の100年建築である。京都市内西本願寺に程近い路地に面して建っている。端正な傾斜屋根の町屋建築が並ぶ町並みにあって、シンボルとなるドーム屋根を頂く八角堂を持つ個性的な外観にも拘らず、この街並みに思いのほか、ひっそり馴染んで建っている。
浄土真宗の信徒保険会社として建設され、その後、銀行、事務所、研究所、診療所と時代ともに用途を変え、現在は研修所として使われている。その間に幾度かの改修は行われているが、建設当時の外観、間取り等にほとんど変化はなく、創建当時の姿を維持保全して使われている。用途は変わっても空間はそのまま利用してきている。
この建築は、建築家であり建築史家である伊東忠太の設計であることを抜きには語れない。木造の伝統を進化して石材・鉄材で作るという伊東忠太の「建築進化論」の実験・実証のひとつがこの建築である。外観や内装にみられる多様なモチーフを取り入れたデザインも然ることながら、木と鉄のハイブリッド梁や跳ね出し部のI型鋼梁の採用等当時としては技術的にも斬新で意欲的試みと言える。
改修にあたっては、「文化財的価値の保全と有効活用の調和を図る。」方針で「修復」に徹して臨んでいる。煉瓦壁内部に鉄筋を貫通挿入し、床内部に鉄骨水平部ブレースを組み込むことで外観を変えず耐震補強を行い、内外装部材は原形を修復する形で保全を図っている。サッシ周りの改修も、既存鎧戸を固定して再利用し、既存窓枠に新設サッシを隠す意匠などの工夫を凝らしている。特記すべきは部屋・部位により多種多様に異なる床や天井のデザインのすべてCAD図面としてトレースし、記録保存を図っていることである。
設備改修においても、現代の技術を活かした省エネ改修を行いながら、歴史的価値のある仕上げを傷つけないように細やかな意匠上の配慮がなされ、かつ目立せない工夫がなされている。既存シャンデリアを修復する一方で省エネを考慮した部屋毎の照度・空調計画を行い、メリハリの効いた省エネ対策が実現できている。また、維持保全計画も設計思想を継承するとの方針のもと、過度に手を加えることなくロングライフできるものとなっている。
伊東忠太の「建築進化論」の実験的建築である伝道院は、デザイン的にも技術的にもその時代の建築をリードしてきたものであるが、100年というロングライフを生き延び、現代に建築の進化、伝統の意味、建築寿命の意味を語りかけているように思える。単なる意匠的文化価値の保存でなく、耐震改修など技術的にも保全し、使いこなしているこの建築の有様は、真にBELCA賞に値するものと評価できる。
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