21回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物

ザ・プリンス箱根 本館

所在地 神奈川県足柄下郡箱根町元箱根144
竣工年 1978年(昭和53年)
建物用途

ホテル

建物所有者

潟vリンスホテル

設計者

村野藤吾
鰹シ田平田設計(改修)

施工者

清水建設
高砂熱学工業
滑ヨ電工
叶シ原衛生工業所
日本オーチス・エレベータ
叶島織物セルコン

維持管理者

潟vリンスホテル

ザ・プリンス箱根本館は、日本を代表する景勝地である富士山麓の箱根芦ノ湖畔に建っている。その自然環境を生かしたリゾートホテルであり、村野藤吾の晩年の代表作である。1978年に竣工した本館がロングライフになった理由は、設計の考え方と大規模改修の方針の2点に要約できる。
 まず設計において、設計者の村野藤吾は、長寿命のホテルづくりを目指すと共に、国立公園のなかでも厳しい計画条件が課せられている芦ノ湖地域の建設地にあって、その湖畔特有の景観を守り、敷地内においても「一木一石たりともみだりに変更してはならない」を設計原則にしたとのことである。
 具体的には、円形の客室棟2棟が樹林の中の空地に分散配置され、フロントや管理部門に加えてメインロビーや宴会場がある中央棟も同様に樹間に建設されている。そして建物はすべて周辺の樹高を超えない計画で、ホテル全体が樹林に包まれて湖畔の景観と調和する設計になっている。またホテル内部では、宿泊者が富士山や芦ノ湖などの見事な自然景観を満喫できるように随所に空間的な演出が行われ、風景と建築が一体化し、建築の内と外とが融合したホテル空間が生み出されている。デザインが優美で空間が魅力的なこのホテルは、リゾートホテルの最高峰のひとつとなっている。
 次は、2007年に竣工後初めて実施された大規模改修の考え方である。その改修方針は、内外部共に村野藤吾の設計思想を受け継ぎ、美しいデザインとディテールを保存して竣工当時の姿に修復することであった。そのために村野藤吾のディテールとそれに応えた職人の匠の技を把握するために現地実測調査が行われ、その調査結果が踏まえられて改修工事が実施されている。
 具体的な取り組みとして、インド砂岩割石目地塗込の外壁、客室棟の花弁のような曲面バルコニーなどの特徴的な外装については、保存修復を目標に清掃・補修が行われた。一方、メインロビーやレストランなどのパブリックエリアも同様で、壁や床については補修あるいは復元材料での張替が行われ、そしてオリジナル家具類も布地張替などによる原型保存が徹底されている。
 ちなみに客室は、「現代和モダニズム」という新しい改修テーマで、ホテル側のニーズを踏まえながら全面的に改修されたが、パブリックエリアなどの改修方針と異なっていたのはいささか残念である。また耐震補強は外観やインテリアを損ねないように施工された。日常の維持管理や保全は、設備機器更新などを除いて、ホテルブランド維持のためにホテル直営で実施されている。
 最後に、短工期であっても的確な保存修復のために現地実測調査を行った関係者の努力に敬意を表する。ここで得られた技術情報が今後の改修に役立つように確実に継承されることを望むものである。これは村野藤吾設計の価値あるホテル空間を提供するホテルブランド戦略にも合致することであろう。ザ・プリンス箱根本館は、建物と景観が一緒に大事に維持される長寿命ホテルの優れた事例である。

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