第17回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件 |
日光金谷ホテル |
所在地:栃木県日光市上鉢石町1300 |
竣工年:1893年 |
用 途:リゾートホテル |
建物所有者:金谷ホテル |
設計者:久米権九郎、葛v米設計ほか |
施工者:野口(大工)ほか |
維持管理者:金谷ホテル |
日光金谷ホテルは、高低差のある地形や豊かな自然の中の佇まいと、意匠と技術における洋と和の混交によって、日光に相応しい一群の景観を形成している。 1893年(明治26年)創建の木造一部大谷石造の本館は数回の増改築を経験しているが、なかでも1935年(昭和10年)には、地下を掘り下げて総2階を総3階に増築するという特筆すべき大改造を経て今日の姿に至っている。1901年(明治34年)新設の木造2階建て新館は、1階にスパン14mのボールルームを持つという用途と、木造トラスと吊鋼棒、外部バットレスという構造形式において、洋風建築の味わいを色濃く持っている。1936年(昭和11年)の久米権九郎設計になる木造一部RC造3階建ての別館は、唐破風の玄関など施設群の中で最も和風の意匠ながら、2×4を思わせる洋風構造となっていて、木摺漆喰壁の耐力上の健全性が改修時に改めて確認されている。 これらの施設は、当時の技術水準の高さと職人芸の誠実な仕事ぶりもあり、また、使い続けることで日常的な維持管理が行き届き、保存状態は極めて良い。機械室の窮屈さなど設備上の課題もあるが、階高の余裕を始め設計の冗長性が長寿命に果たした役割も大きい。 戦後、GHQに接収されたこともあったが、解除後は再びホテルとして今日まで使い続けられており、その間、新規の物を極力加えず、元の意匠を損なわない最低限の柱・壁などの構造補強と設備の更新に徹している。既存建物の制約下で最新のホテル水準までは到達できない限界を承知した上で、保存と改修のバランスを取り続け、アインシュタインが宿泊した部屋の再生など、むしろ復元的改修に重きを置いているようにも思われる。 施設の運用管理・維持保全面でも、創業からの機材を修繕・更新するという「いつ来ても、昔のまま何も変わらない」の基本理念が貫かれ、ホテル従業員により全て実施されている。これらは、維持保全計画(〜2036年)に基づき実施され、2005年の大改修の設備工事では、屋外消火栓の更新など防災設備の強化、発電機の新設、蒸気配管の更新と電気低圧幹線、電灯分電盤、TV配線、アンテナ、照明器具の更新など保全性強化がなされた。多くの設備機器材が綿綿といまだに使用されているが、鋳鉄製ラジエーター(蒸気ボイラー熱源)のように50年以上経過した年代物はその機能を超えた懐かしい雰囲気を醸し出している。また、本館と増築館の間に敷設されたトレンチは蒸気管の更新時にも有効活用され、現在も生き続けているところに、改めて維持保全の理念を観た思いがする。 東照宮を彷彿とさせる彫り物、格天井、天井画など工芸的装飾品を含め歴史遺産として残し使っていこうという創業家の決断と営為は、時間の流れを展示する観光資源の保存という街ぐるみの活動と一体になり、日光名所群の一角を担うに至っている。 |
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