17回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

龍谷大学大宮学舎 大宮図書館

所在地:京都市下京区醒ヶ井通花屋町下ル門前町60
竣工年:1936
改修年:2006

用 途:図書館・研究室(改修前後とも)

建物所有者:学校法人 龍谷大学
改修設計者:鞄建設計
改修施工者:松井建設   

大谷探検隊収集による世界的なコレクションを所蔵する、質量ともに優れた大学仏教図書館のリフォーム。昭和11年竣工の大倉一郎(元京都工芸繊維大学長)設計による当建物は、京都西本願寺境内の一角の大宮通りに面し、景観的にも周辺環境に調和している。大学創立370周年事業としての図書館整備を行なうに当たり、その社会的価値を考慮して建替え移転を選択せず、既存改修と増築をセットとして機能と耐震性の向上を図ったものである。

既存建物は、中庭を囲む日の字型平面をしていたが、中庭部分の廊下を撤去し、ロの字型平面の中央部分に、耐震性向上の多くを担う新しい建物を増築している。これにより機能的にも設備的にも既存建物と一体化した、新たな現代の大学図書館として機能を満足する空間を作り出している。これは、外観を変更せず街並み景観保全が計れる上に、増築が可能という、同様の古い中庭型建築の改修手法として、今後、展開可能な手法である。既存部分を使用しながらという難条件のもと、30ヶ月という長期に亘って、貴重な蔵書・資料を損なうことなく綿密な工程、施工管理のもとに改修が行なわれた点も評価出来る。

設備面においては、機能・性能の大幅改善と省エネルギー化が図られている。空調(空気熱源ヒートポンプ+パッケージ)や電気などは増築部の設備シャフトから、新設のOAフロアを通して供給されている。このことにより、天井高5mの2階開架閲覧室でも、利用者身体周辺への効率的な室温が供給出来るとともに、床下からの配線が組み込まれた書架・デスクに一体化された照明器具が設置され、無駄のない適度な照度の確保が可能となった。特に、閲覧デスク用に開発された照明器具は、手元照度を確保するとともに、天井面に反射された光で柔らかな室内環境を演出し、意匠的にも優れたものである。一方、主要機能の一つである重要仏典関係資料の収蔵施設は、周到に計画された保存・防災設備が施され、日常の状態監視、データ管理が行なわれている。省エネルギーとしては新設躯体を利用した外気予冷・予熱ピット・外気冷房システムなどが採用されライフサイクルコスト(LCC)の縮減も目論まれている。

以上、非常にレベルの高い計画・設計と施工により、綿密・着実になされたリフォーム事例の好例であり、当賞に相応しいものである。

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