22回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

大和文華館

所在地 奈良県奈良市学園南1丁目11番6号
竣工 1960年(昭和35年)
改修年 2010年(平成22年)
建物用途 美術館
建物所有者 近畿日本鉄道
改修設計者

潟vレイスメディア、椛蝸ム組

改修施工者 椛蝸ム組、日本ファシリオ

半世紀前1960年に、吉田五十八設計により建てられた美術館のリフォームである。奈良市学園前の閑静な住宅街に位置し、建設時は「観賞のための美術館、美のための美術館」として、自然との調和が、地域に根差す建築主である鉄道会社より求められた。吉田五十八は、伝統工法の「なまこ壁」を特徴あるデザインモチーフにして、「自然の額縁」の中で一番美しく見える設計を行い、此れに見事に応えた。改修にあたっては、原設計の良さである、ゆとりの有る展示空間、シンプルで明快な平面、断面構成が大きく寄与し、リニューアルしても些かも原建物の良さを損ねない結果となっている。やはり、将来を見据え建物の持つ社会的価値を充分理解した発注者と、それに応えた設計者の技量と、管理者、施工者の熱意が、こうして半世紀を経て、リニューアルされても素晴らしい建築となる事を示す好例となりうるものである。今後も、良く管理されていくならば、文化遺産となることを期待される一級の建物である。
 具体的には、耐震、空調、バリアフリー化、ランドスケープ等の改修が行われた。特に重要文化財を展示する美術館で最も神経を使うのは空気環境である。中庭空間をうまく利用し、目立たない形での自然外気の導入に加え、従来のセントラル空調方式から改修により個別空調方式に転換し、展示物毎の細やかな温湿度制御と省エネ性能の向上、来館者の快適性を実現している。バリアフリー化においては、アプローチから建物内部の展示室に至るまで改修が行われ、現代の美術館としての要求レベルを満たしている。照明設備においては、中庭や開口部からの完全遮光等、美術鑑賞に最適な照明環境を設定できるシステムとしている。省エネ面においては年間一次エネルギー消費原単位が826MJ/u・年を実現し、一般的な美術館・博物館と比較(1560MJ/u・年)しても非常に少ない数値を達成している。ランドスケープも、アプローチ空間の駐車場・緑地帯整備が丁寧になされ、敷地環境をより一層の向上が計られ、「大和文華」を建物、外構と一体となって来場者に体感させる空間を提供している。願わくは、優良な社会資産として後世に残すために、新築時・改修時の工法等の記録を残していただく事を望みたい。例えば、外観の特徴である「なまこ壁」が開口部のグリルとして使われている部分の工法は将来の補修に必ず必要で、その正確な履歴は文化資産としての維持において我々に課せられた使命であると考えられる。

第22回BELCA賞に戻る
BELCA賞トップに戻る