建設後15年強経過したシティホテルを、共同住宅を含む複合施設に大規模にリフォームした計画である。賃貸のサービスアパートメントや、一定期間滞在する外国人向けのホテルのほか、事務所や店舗なども有する、本格的なコンバージョン事例である。
既存の建物は、総合設計制度によって建設されており、容積率割増や斜線緩和などの措置を受けていたが、敷地の一部売却と買い増しによる敷地条件の変化により、総合設計適用の取下げ手続きというプロセスを経たことが、この計画の大きな特徴である。本来の容積率に適合させるためには、一般には減築という手法が考えられるが、この計画では、共同住宅へ用途変更することにより、共用廊下・バルコニーなどを容積に算入しないという現行法規定の仕組みを活用している。ホテルらしいポツ窓のプレキャストコンクリートカーテンウォールはそのまま残し、サッシを取り外して内部をインナーバルコニーに改造するなど、今までのリフォーム手法には見られない試みがなされていることも特筆すべきであろう。このインナーバルコニーは、共同住宅に必要な避難経路としても使われている。足場を設置しない、工事負荷の少ないリフォーム計画であることも特徴であろう。耐震補強のために設置されたプレートアンボンドブレース内蔵プレコンも、タワークレーンを用いない工事計画の下で、部品化の工夫がなされている。
リフォームの結果、新たに造られたサービスアパートメントは、複数の建築家がそのデザインに参画し、多様な住居が実現している。特に、ホテルの高階高の共用空間であった層では、その階高を利用した豊かな居住空間が生み出されている。ホテルの層と共同住宅の層で、既存のエレベータシャフトを使い分けるなど、コンバージョンならではの工夫もされたリフォームである。
このような大規模な用途変更計画では、設備システムも大幅な変更がなされなくてはならない。空調や給湯は、中央熱源方式から空冷ヒートポンプビル用マルチによる個別方式に変更されている。共同住宅の設備計画は、ホテルとは基本的に異なるが、個別熱源の給排気なども、既存の吹き抜け部を利用するなど、既存の建築構成を巧みに利用している。また、熱源システムの変更によって不要となった機械室は、将来の設備増設スペースとして確保されている。契約電力は6割に削減されており、電力は大幅に省エネ化されている。
計画の当初には、全面建替えも検討されたようであるが、ストックを活用するために、様々な努力がなされたリフォーム事例であり、今後も参照される計画であろう。駅に近い敷地の角部分の敷地が買い増しされ、魅力的な広場が造られていたが、放置自転車対策などのために、改修直後の景観が損なわれていることがすこし残念である。
|