2010年に改修されたこの野球場は、設計・施工プロポーザルコンペによって選ばれた改修案によって、通常の野球場には見られない、公園と一体となって市民に開かれた、魅力的な施設に生まれ変わっている。
設計競技の際の条件であった、大屋根を設置することという要求を一ひねりし、すり鉢状の大きなネット裏席を、屋根の機能をもたせた形態とすることにより、画期的なリフォームとなっている。この大屋根スタンドの下は、メインアプローチとなる大階段から導かれるコンコースとなっており、売店などを備え、グラウンドを望むことのできる気持ちの良い空間を作り出している。大屋根スタンドは、形態的にも野球場のシンボルとなっており、優れた解法と言えよう。
芝生席のバックスタンドを周辺の公園と一体化させようとしたことも、今回のリフォーム設計の大きな狙いであり、設計競技の際の条件を超えて提案されたものである。実際に、公園を散策する市民が、そのままバックスタンドの裏を抜けていくような光景が展開されており、設計時の想いが絵に描いた餅ではなく、しっかりと実現されていることも高く評価できる。市民に開かれた運動施設の一つの形を実現していると言ってよいであろう。
不足していた耐震性能を補うことが改修目的の一つであったが、それにとどまることなく、費用対効果の高い改修となるよう、様々な工夫がなされている。プロ野球の興行も可能な野球場であり、立派な室内ブルペン・練習場が用意されている。2011年3月の東日本大地震の際には、市役所が被災したため、郡山市はこの野球場に防災本部を設置したが、災害時に備えた改修が行われていたため、災害対策の基地として、想定以上に機能したとのことである。野球場としての様々な施設が、災害時の拠点として機能するように計画されていたことが実証されている。また、平時は、市民がそれらの施設を利用することができるような工夫もされており、まさに市民のための野球場に生まれ変わっている。
防災拠点としての役割を考慮して、ナイター照明用常用発電装置を、非常用電源に切り替えて利用できるように改造されていたことも特筆すべきであろう。衛生設備も、受水槽を設置して災害時に備えるなど、様々な工夫がなされている。スコアボードも、LED方式の大型映像装置が採用され、災害時には市の広報機能として活用できるようにされている。
このように、市民のための施設として、理想的な形に改修された野球場は、安積平野の歴史を伝える開成山公園にとって、よりふさわしい場所にリフォームされたと言えよう。
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