福岡パルコは、1936年竣工の旧岩田屋百貨店本館が全面的に一新された商業施設である。老舗百貨店の岩田屋が近接地に移転してから、福岡の代表的な街角の灯が消えていた。このたびパルコが出店したことで街角建築が蘇り、この天神地区から新たな商業文化の創生が始まっている。
今回の大規模改修の要点は、安全性、事業性、環境の3点である。1つ目の耐震や防災などの安全性向上においては、巧みな改修技術が提案されている。まず耐震改修では、店舗配置の自由度確保のために既存の構造体が利用された。建物外周部のRC構造躯体の開口部にRC耐震壁が配置されて、内部の柱には鋼板巻き補強が行われ、また耐震ブレースが共用空間に隠蔽されずに設置されてデザイン要素としても取り扱われている。一方の防災改修では、特別避難階段新設、既存の避難階段に附室増設、既存EVシャフト利用による非常用EV新設などが実施された。またバリアフリー対応の面では、隣接建物のバリアフリー設備との一体的利用を前提とした改修が実施されている。
次に2つ目の事業性では、集客力ある専門店ビルが目指されている。既存建物は基準柱間が5.9mグリッドで基準階高が3.35mであるが、この厳しい空間条件が上手く活用されて、空間密度が高く、何かを発見する路地的で魅力的な空間が生まれている。そのために店舗構成配置や共用部デザインに加えて、既存エスカレーター設置部の改修も行われている。スリム型エスカレーターを片側に寄せた更新が行なわれて、幅11m奥行1.5mの吹抜が生み出された。この9層吹抜が下から2層吹抜、3層吹抜、4層吹抜と順々に3つに分割され、動線の要であって開放感のある心地よい空間になっている。また近隣の商業エリアとの共存も図られて、防災技術の工夫によって隣接施設との接続が増設されるなど、来街者の回遊性が高められている。そして街区の顔づくりとなる外璧改修デザインでは、その嗜好においては賛否両論があると思われるが、「イメージ一新」という出店コンセプトに呼応したインパクトのあるデザインが提案されている。
3つ目の特徴は環境で、設計から維持管理までの全般に亘る環境負荷低減の技術である。具体的には、まず二重外璧を利用した外皮の熱負荷低減があげられる。これは商業施設が年間を通じて冷房を行うことに着目し、新旧外壁の間に形成される空気層への外気流入を季節に応じて制御することで負荷低減(日積算熱量4%減)を図るものである。次に、外壁や店舗内共用通路へのLED照明の採用、全熱交換器や節水型衛生器具の採用、さらに外壁を光触媒コーティングすることによる清掃回数の低減など様々な環境上の配慮がなされている。
今回の福岡パルコが成功をおさめているのは、運営者パルコのデザイン陣と本体改修設計者との協働による賜物である。この福岡パルコは、街の活性化にも貢献するストック型商業施設の好例であり、BELCA賞ベストリフォーム部門にふさわしい建物である。
|