庄内平野に位置する城下町鶴岡も、郊外の大型商業施設進出や事業主の高齢化などにより、中心市街地の商店街が衰退するという地方都市共通の構図を描く。
本事業は中心地で昭和初期から続いていた絹織物工場の移転を機に、その跡地を活用する中心市街地活性化プロジェクトであり、事業主体が鶴岡商工会議所加盟企業の出資による民間資本のまちづくり会社であることにも特徴がある。
当初は解体しての跡地利用が検討されていた産業遺産でもある木造既存工場を、その小屋組みを活かした「街の回遊の核」となる生活利便施設としての映画館に再生することで、賑わいの起点となり、中心市街地活性化のシンボルとしている。
用途上は既存不適格の工場を、各種許認可を経て木造で4スクリーンのシネコンに改修し、映画上映の他にも各種演芸や講演会など広範な活用を図り、一般的なシネコンとは一線を画す、年齢層を越えた地域文化の中核施設となっている。
エントランスホールではトップライトの明かりを得て、嘗ての絹織物工場の記憶を纏いながら、木造トラスが美しく力強く表現されているし、40席から165席の4つのシネマでも、小屋組みを見せながら梁下高さ確保の為に、地盤を掘り下げて階段状スラブを新設し、織物の縦糸横糸を連想する木製ルーバーの壁面と、絹の柔らかさを思わせる極めて座り心地の良いオリジナルデザインの客席により、温もりと雰囲気のある空間に仕上がっている。
構造的にも、小屋組み・軸組みの劣化に対する部材の繕いと取替えに加え、構造用合板の耐力壁増設や鉄骨の外部添え柱による耐震補強が為されている。
元々が古い木造絹織物工場であっただけに、設備面は一新されている。空調設備はEHPパッケージを採用し、全熱交換器による外気負荷低減を図っている。さらに、駐車場融雪設備は井水散水方式とするなど、省エネルギー上の配慮がなされている。
建物外装には杉の下見板貼りを施し、既存の煙突やオイルタンクを補強し存置することで、嘗ての工場の風景を継承復元し、ポーチ床の羽二重模様や吟味され抑制されたサイン計画とともに長い歴史に彩られた地域性と懐古感を醸し出す。
また、維持管理については建築・設備・機械の各地元施工者による保全体制が構築され、長期の維持保全計画に基づく、きめ細かな管理を行うこととしている。
地元企業に支えられる(株)まちづくり鶴岡を中心に官学・市民を巻き込んだ活動で、市街地活性化を強く指向し推進するこのプロジェクトは、その主旨と着想と技術が評価されると共に、時を掛けても着実に地域に根付く土着性を持っている。
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