21回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

国立大学法人 東京工業大学すずかけ台キャンパスG3棟

所在地 神奈川県横浜市緑区長津田町4259
竣工 1979年(昭和54年)
改修年 2010年(平成22年)
建物用途

講義・研究室棟

建物所有者 国立大学法人 東京工業大学
改修設計者

国立大学法人 東京工業大学
椛至驩謳ン計
潟eクノ工営

改修施工者

粥ヌ沼組
滑`本商会
叶マ田電業社

東工大すずかけ台キャンパスは、学部機能を持たない我が国初の大学院大学創設を目標として、1970年代後半から実質的な運用を開始した。当G3棟は、初期マスタープランに基づき当時の建築学科の助教授であった谷口汎邦(現東工大名誉教授)を中心とする長津田研究室により設計された高層研究棟のひとつで、モダニズム建築の流れを汲むものであった。緑豊かな丘陵地の外部風景を満喫させる横連装の、2つのオフィス空間(メインボディ)が、3mセットバックした縦シャフトで連結されるという明快な構成であった。耐震改修が喫緊の問題となり、併せて当初はセントラル空調であったが、次第に個別空調の室外ユニットが窓面に多く取り付けられ美観を損ねていた設備面の問題も解決すべく、全面的な改修が行われた。
 今回の改修で何よりも特筆されるのは、オフィス空間相互の5mの幅に「ロッキング壁柱」を挿入する耐震補強を施し、且つ3mのセットバック空間を利用して個別空調設備機能を設置することにより、構造・設備面の問題を一挙に解決し、デザイン的にもオリジナルデザインの特性を尊重しつつ、時代に対応した発展型の改修を行ったことにある。耐震性能を向上させるには、建物全体を耐震補強フレームでカバーし、全く新しい建物として建物として再生させる方法と、既存のデザインに出来るだけ抵触せず耐震性能の向上を目指す方法の大きく二つの方向が有る。しかし今回は、最小の操作で耐震性能を向上させると共に、なおかつオリジナルデザインの特性を尊重する第3のレトロフィット手法を試みている。非自立型のプレストレスを導入されたロッキング壁柱を既存建物に、吸収ダンパーを介して寄り添わせることによって、地震時における変形を特定階に集中させることなくコントロールする手法を開発した。この壁柱脚部は回転自由(ロッキング)でありモーメントを発生しないことから、基礎部の補強を軽減し大幅なコスト低減も図れている。打ち継ぎ目地を眠らせたシャープな壁柱の下部には、偉人のアフォリズムが刻み込まれ、露出されたピン接合部の緊張感あるディテールとともに、教育空間らしい雰囲気を醸成している。いかにも耐震補強しましたと言わんばかりの建物が多い中で、あたかも新築で計画されたかのような印象さえ受ける外観である。
 外構計画においても、モダニズムの象徴であったピロティ部分を一部復活し、未利用地であった、後背のバンクとの間の空地にウッドデッキを敷いて、一体利用が出来る空間を作り出し、学生、教員のアクティビティを向上させていることも評価される。今回の改修をモデルケースとして、この手法を更に展開・発展させ、すずかけ台キャンパスの新しい風景を順次構築して行かれることを期待したい。

第21回BELCA賞に戻る
BELCA賞トップに戻る