石川県庁の金沢駅西副都心移転による市街地の活力低下に対し、旧県庁本館(日本建築学界が保存要望)と「堂形のシイノキ」(国の天然記念物)の一体保存と県庁跡地利用により中心市街地の活性化を図ることを目的とする事業である。
歴史的な価値の高い旧本館の正面部分は、保存・再生に向けた綿密な調査と構造耐力試験などを経て、レトロフィット免震の採用と鉄骨や炭素繊維による構造補強を施している。構造的な安全性を確保した保存部分外部は、外装タイルへのピンニングとエポキシ注入、解体部分から採取したタイルでの張替え、人造石洗い出し仕上げの補修やレリーフの修復も行っているが、工事に際して「堂形のシイノキ」の広がった根を痛めない配慮など、丁寧な施工は特筆されるべきものといえる。
増築部分は保存部分の対比としてガラス主体の極めて透明性の高い現代建築となっているが、芝生広場からの景観としても旧庁舎壁面を透けて見せるなど新旧の調和が好ましい。
内部では旧庁舎の意匠を留めた正面玄関、中央階段、旧知事室、旧副知事室は耐震補強や断熱工事の後にオリジナル材再利用を含む丁寧な内装復元がなされているほか、木製バランス窓も原型に復元されている。旧庁舎では対応不可能なバリアフリーを増築建物側で処理して、県民や市民を迎える迎賓館としての機能を確保し、セミナー室やギャラリー、国連大学高等研究所さらには著名なレストランを含む「文化交流施設」として再生している。
設備面では、電気室・機械室は増築部分の地下に新設されており、保存部分の屋上には空調機械室や室外機・非常用発電機を設けている。省エネルギー対策としてはアトリウム空間の居住域空調としての床吹空調・吹抜け内の温度差を利用した中間期の自然換気・採光のためのトップライト・気密性を確保した木製サッシュなどの採用により、年間一次エネルギー使用量(2,923MJ/u・年)を実現している。一般建築より若干大きめな数値は、融雪用ヒータが設置されている為と考えられる。
イベントホールやレストラン・カフェからの眺望は、大面積のガラス越しに臨む金沢城公園・兼六園の緑や石垣の圧倒的なヴォリュームと緩やかな起伏が平面的な広がりを見せる芝生広場との対比的な構成により、時代性と空間性を感じさせる魅力と迫力がある。
中心市街地活性化という課題に対して、「歴史的蓄積と緑の環境」と「賑わいの広阪・香林坊」との回遊性を生む動線上に中央公園やいもり堀園地と一体化したイベント対応可能な広場を整備している。文化交流施設として保存再生された「しいのき迎賓館」が活性化の基点として、課せられた継続的貢献を果たして行くものと確信できる。
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