20回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

名古屋大学豊田講堂

所在地 名古屋市千種区不老町
竣工 1960年(昭和35年)
改修年 2008年(平成20年)
建物用途 講堂
建物所有者

国立大学法人 名古屋大学

改修設計者

伎総合計画事務所

改修施工者

樺|中工務店
ダイダン
須賀工業
高砂熱学工業

名古屋大学豊田講堂は、1960年に竣工して以来、我が国の重要なモダニズム建築の一つとして高く評価されている。完成して半世紀近くが経ち、外璧劣化などの建物老朽化が進み、建替えも視野に入れた検討が行われた。幸いなことに豊田講堂は、大学のシンボルとしてキャンパス整備の中核施設に位置付けられており、耐震診断の結果が主体構造の補強の必要性はないということであったため、保存改修という結論となった。講堂の保存再生と機能強化・拡充の二つが改修目標に置かれた。
  一つ目の保存再生では、外観デザインの印象を損ねないでコンクリート化粧打放し躯体を復元することが課題だった。そのためにピロティ独立柱のプロポーションを守りながら再生する工法が開発された。この原型保存の工法は、杉板本実型枠にメッシュ筋を配して高流動化コンクリートを打設する薄肉打ち増し工法で、具体的にはコンクリート表面を30ミリ削り、その上に新しくコンクリートを55ミリ打ち増している。またこの打ち増し工法を採用しないコンクリート打放し部の補修では、開発された杉木目転写技術によって杉板本実型枠コンクリートの質感を復元している。
  さらに金属笠木を新たに設置し、コンクリート打放し外壁に汚れ防止用表面保護塗装を施すなど、細部にわたって長寿命化を意識した保全改修を実施している。そして今後の50年を見据えた中長期保全計画を策定し、これから計画的に保全工事を実行していくことになっている。
  今回の保存再生工事を通して、コンクリート打放しのモダニズム建築の保存再生に寄与する汎用性に優れた技術が開発されたことは、高く評価できる。
  二つ目の機能強化・拡充では、ホールの性能向上に加えて講堂利用拡大と環境配慮対応を目指す改修が課題だった。具体的には講堂のピロティ空間をホワイエに変更し、さらに講堂の背面に建つ建物(シンポジオン)の間にアトリウムを設けて講堂とシンポジオンの一体的利用を実現している。またホール舞台廻りの改修、ゆとりある客席配置への改修、講堂屋根の外断熱化なども実施している。
  設備関係の改修については、熱源機械室をアトリウムの地下に移設し、振動源や騒音源を排除することによりホールの静音性を飛躍的に高め、かつ電気音響設備の改修で、幅広い用途に活用できるホールに生まれ変わっている。また不要となった蓄熱槽の空洞を空調ルートとして有効利用することで、ホールの空調を客席床下からの居住域空調方式に変更し快適性向上を達成している。ホール天井照明設備においてもオリジナルデザインの間接照明以外に高効率放電灯を増設して平均照度アップしながら省エネも図っている。またホール客席にはLAN端子も設けるなど、情報対応にも工夫がされている。
  今回の整備事業では、建物を使い続けるという大学側の明確な意思とそれに応える技術開発陣の地道な努力が高い成果に結び付いており、改修を行って建築の長寿命化を実現する優れた事例である。BELCA賞に相応しい建物として評価できる。

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