第11回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件
上高地帝国ホテル
1933年(昭和8年)高橋貞太郎によって設計された木造の上高地帝国ホテルは、40数年の厳しい自然の風雪の経過によって老朽化が進み、1975年(昭和50年)に建替え決定された。そして1977年(昭和52年)に現在の地下一階、地上四階のRC造の新ホテルが完成したのである。この新ホテルは旧ホテルと同様に中部山岳国立公園内の特別環境保護地区という厳しい条件の中で、そのイメージを残しつつ、かつ時代の要請にも応えられる機能性を確保しながら現在に至っている。この新ホテルはRC造といえども仕上げ材として内外装の木造のイメージを余すところなく継承し、外装基壇部では自然石積みなどによって、自然環境との融合を図り、特に木造の外部テラスなどはユニット化され、老朽化による交換などの容易さに対する配慮も行き届いている。またRC部と外装部は空気層によってリタッチし、開口部の雪囲い、ガラリ面の雪除けボックスの装備、水抜きの集約化など雪害や凍結対策が各所にきめ細かく施され、寒冷地建築の在り方とこのホテル建築のデザインの目指す方向が一致しており、運営面でも計画の主旨は遺憾なく発揮されている。
そして何よりも、このホテルの建築として賞賛される点は、厳しい自然環境に対するメンテナンス対策と同時に、冬季の完全閉鎖期間(11月から4月までの六月間の無人化)があるにもかかわらず、クライアントと施工者、設計者が一体となって施工時から現在に至る24年間、綿密な連携の元に維持、管理、運営を継続して持続させていることである。そして、このホテルを愛する利用者が継続して来館し、途切れることがないということ。これこそ、このホテルがBELCA賞ロングライフ部門に値するにふさわしい建築としての内容を示している。