第11回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件
大阪厚生年金会館
1968年(昭和43年)、現在では117箇所を数える(財)厚生年金事業振興団の施設の中で東京、湯河原に続き建設された、当時では本格的な多目的ホールを有する複合文化施設である。立地条件も幸いして長い間多くの聴衆と利用者に親しまれてきた。
竣工以来、ニーズの多様化、基準法・消防法・ハートビル法(身障者対応など)などの各種法規の改正、環境対応(燃料の変更など)に呼応して、1976年ホテル棟の増設、1991年クラブ棟の増改築、防災改修、各席改修、1999年中ホールと、改修が繰り返され、常に建物の機能性、健全性の維持に努めている。又、中央監視盤、電気設備、非常用発電設備、熱源設備、空調設備、給排水設備、舞台設備等、ほとんどの設備が逐次更新されている。又毎年作成される整備計画書により入念なメンテナンスがされ、建物の細部に渡るまで、バランスの良い配慮が行き届いている。多岐に渡る整備計画書は、今ではITを活用、ペーパーレス化が図られ業務の合理化も図られている。
狭い敷地に一杯に建てられた配置の結果、大道具・装置類の大型化により搬入に苦労している、3万uの建物に充分な車寄を設けるスペースもない、行き止まりのサービスの為の車の動線、大きく閉鎖的なホールの壁面が周辺地区との関係を阻害しているなど、計画時点のプログラムと建築的な解決に疑問の点も残るが、この疑問は当時から充分認識されていたようで、様々な提案もされたという。しかし当時の状況から許されなかった背景も充分推測できる。
完成から30年以上が経過、この建物は、前面の公園と一体となってこの街の風景を形成、ロングライフにふさわしい時間の経過を感じさせてくれる。又、昨年も115万人と今でも利用され続け、117施設全体とはいえ収支も成り立っている。この間に日本経済は未曾有の発展を遂げ、今、バブル期の負の遺産の処理に四苦八苦している。今後の経済も先行き不透明な中で、何よりもこの建物の示す価値は、建物の根幹をなす骨組みと大型陶板に守られた外壁の確かさ、地道な日常的な維持管理にある。この為に支払われている設計者、施工者、管理者の姿勢は、ややもすると忘れがちな現代の建築関係者に警鐘を鳴らしているように思える。