第11回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件
大和銀行虎ノ門ビル
リニューアルとは新たな付加価値を創造しながら再生すると言う、極めて創造的な行為である事を改めて考えさせてくれる優れた計画である。
取り壊して新たに建築する事との比較の上で、あえてリニューアルを選択して結果的に事業的にもデザイン的にも成功したのは、この計画が持つ多くの課題に対して、様々な切り口での周到な創意工夫による積み重ねがあったからこそと言えよう。
片側に偏心したコアからなる平面計画に対して、新たに外周部に構造上のグリッドフレームを付加し、耐震性に万全を期すと共にファサードデザインとしても積極的に活用して、全く新たな、彫りの深い優れた表情を作り出した事は特に評価できる。
更にテナントが居ながらと言う条件に対して、外部から全て工事を行なう施工計画も又、説得力を持ち、緻密な計画と関係者のチームワーク力を感じさせる。
設備機器も全て更新され、空調設備は従前のボイラー、冷凍機による方式から、空冷ヒートポンプ方式とし個別空調が可能になる等、様々な工夫により省エネルギー化を図っている。IT対応の先端的ビルとして設備のリニューアルと共に、天井高を確保する為にあえて梁を一部露出させて天井を打ち上げた事は、むしろ大空間を細分化し和らげる効果を生むと同時に、リニューアルの持つ現実との葛藤のリアリティを感じる事が出来る。
リニューアルは優れた"調理人"に出会う事で、そこに既に在る素材の質の理解と活用によって、それ以上の新しい"味"を生み出す事も又可能になる。そして、素材としての建築はその生まれた時代を背負いつつ、長い時間に耐えながら、リニューアルについても十分に配慮された、言わば懐の深い計画でありたい。