第19回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件 | |
日本大学理工学部駿河台校舎5号館 |
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所在地 | 東京都千代田区神田駿河台3-11-2 |
竣工 | 1959年(昭和34年) |
改修年 | 2008年(平成 20年) |
建物用途 | 大学校舎(改修前後とも) |
建物所有者 | 学校法人 日本大学 |
改修設計者 | 日本大学理工学部駿河台校舎5号館改修検討委員会 清水建設株式会社一級建築士事務所 |
改修施工者 | 清水建設株式会社 第一設備工業株式会社(衛生・空調工事) 岩崎電気工事株式会社(電気工事) 間瀬建設株式会社(免震工事) |
建築の改修を行う場合、常々思うことは、元の建築とは異なる現在の感性で感受するアメニティーを獲得することの意味である。その議論が付きまとう、何故なら建築の誕生の背景とその歴史的継続性を看過して議論することはできない問題だからである。 本建築は、1959年(昭和34年)に竣工した、『ニューブルータリズム建築』の代表作である。今回の改修のテーマ「耐震性の向上」がその主目的であり、その建築の存在意義と歴史的継続性を担保しながら、現代の最先端技術とあるべき現代建築の意義を表明することが、建築学科の教材としても大変意義深いものであることは明らかであった。それは、この建築が近代建築のモデルを表明し、その存在意義を現在、そして未来に引き継ぐ責務を背負っているからである。 この改修設計の最大のポイントは、目的に対する構造的解決のあり方であり、道路境界ぎりぎりに建設された建築の免震工法の採用と免震ゴムと耐火被覆クリアランスの極小化、そして、免震階のサッシュ上部の免震スリットのディテールとその精度にある。その解決方法として、中間階免震層に粘性ダンパーである「ダイナミック・マス」と、免震層下部の耐震補強と「複層トグルダンパー」による制震補強が採用された。そのことによって、免震、制震、そして耐震性能を組み合わせたハイブリッドな試みが性能向上を図る意図を明確に表している。また、免震層の変形を小さくし、地震時に耐火被覆材を損傷させない範囲で免震装置の存在を感じさせないほどの精度をもって、仕上げられていること、そしてさらに、その機能、性能の高さと同時に、デザイン的な美しさは、他に類を見ない存在感を示している。その意味でも、この構法の採用は、他の建築にも今後その可能性を広げる期待には大きいものがある。 要約すれば、この建築の耐震改修の最大の評価点は、それぞれが特色を持って、巧みに組み合わされた結果が優れた『ハイブリッド構法』として成立させ、かつその設計的難度を施工のレベルにおいてもさらに高めた精度の高さであろう。しかしながら、本来のコンクリート化粧打放しだった外壁にフッ素樹脂系塗料を塗装、あるいは内装を白く仕上げられた空間への更新には、当時の建築の持つテイストが損なわれ、二ューブルータリズムの建築の醍醐味を後退させていることに、多少の違和感は拭えなかった。 設備面では、本建築が、教室と研究室という特定な利用形態から、中央熱源方式から空冷ヒートポンプパッケージによる個別方式に全面改修を行い、利用上のエネルギー効率を高めている。また高効率照明器具、トップランナー変圧器などの採用、運転管理の効率化などにより、一次エネルギー換算で約26%のエネルギー削減を図っている。 その他、不要になった煙突を電気シャフト(EPS)に再活用したり、廊下部分の天井には、ダクトやケーブルラックを天井内に収めるなど、整理された環境を作り出した結果、コンパクトできれいに纏められているが、先に述べたように、近代建築改修の難しさを、この建築にもそのすべてが解決されたとはいい難い結果として残している。それは、元の建築の何を残し、何を現在に、そして未来へつなげようとしているのか、その問いの答えがいまひとつ見えにくかったということである。しかしながら、その答えに対する論議は、常に問い続けていくしかない課題なのかもしれないのだが、言えることは、その問いかけこそ、この建築の改修の是非を超えて、近代建築の教材であることは間違いない。 |
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