19回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

九州工業大学先端教育コラボレーションプラザ

所在地 北九州市戸畑区仙水町1-1
竣工 1927、1961、1964、1965、1966、1976年(昭和2年、36年、39年、40年、41年、51年)
改修年 2008年(平成20年)
建物用途 大学総合教育研究棟(改修後)
標本室・大学校舎(改修前)
建物所有者 国立大学法人 九州工業大学
改修設計者 九州工業大学施設課
上野・藤井建築研究所+千葉大学 上野 武
株式会社 桂総合設計事務所
株式会社 総合設備計画
EEP研究所
改修施工者 溝江建設株式会社
株式会社 千葉工務店
株式会社 九電工
西本建設工業株式会社
株式会社あいはら
三建設備工業株式会社
 九州工業大学先端教育コラボレーションプラザのある戸畑キャンパスは、辰野金吾によって1907年(明治40年) に設計された明快な軸線を持つキャンパスであった。キャンパスの中心施設は戦前まで利用されたが、戦後建て直されキャンパスの骨格は大きく変わった。中心施設の総合教育棟、学術交流ホールは老朽化し、学生支援プラザも使命を終えた状況にあった。
 今回新たにキャンパスリニューアル計画の一環として、老朽化や耐震性能の不足に対して、大規模な改修が行われた。施設を単なる個々の建物の機能更新により改修するのではなく、新しい概念、即ち「創設の理念を失いかけたキャンパスの再生」を目指し「過去から未来へつながるキャンパスの再生」を掲げたのが今回の改修計画である。新築の「情報学習プラザ」と改修の「総合教育棟」がロの字型に広場を取り囲み、その中心に保全・再生した「学生支援プラザ」を配置した。地上部は明快な軸が建物を貫通し、キャンパスの歩行者ネットワークが設けられ、明快な軸線を持ったかつてのキャンパスの魅力を取り戻している。その結果、交流の場となるオープンスペースの整備、情報環境のための高度情報機能整備、大学の歴史伝統を感じられる大学史料館の整備が行われ、保存・改修建物群の耐震性・省エネルギー・バリアフリー等の機能向上を実現させて成功している。「総合教育棟」は、外壁面に空調室外機置き場用架台を設置し、維持保全の容易性を前面に強調すると共に、目隠しを兼ねたアルミ製パンチングメタルが日射を制御し、空調負荷を軽減している。また、建物状況に応じた空調方式を各々採用し、特に空調機の集中管理による切り忘れ防止や、電気使用量の計測によるエネルギーの「見える化」を実践している。その結果、全国の大学におけるトップクラスの施設マネジメント体制が構築されている。「学生支援プラザ」は入念な事前調査により耐震補強する事なく再生させ、歴史的な建物を受け継ぎ次世代へ学校の伝統・文化を継承させた。また、「学術交流ホール」は原設計者のコンセプトを理解した上で、よりシンプルな空間を再生し、新たな建築を誕生させている。
 キャンパス計画のリニューアルは難しい。保存・改修・建替の判断が大きく次世代に影響を与える。今回の計画は、既存建物の保存・改修・新築のバランスが取れたキャンパス計画である。保存・改修・新築が一体となった中庭・プラザを取り囲み、歴史の継承と未来へのバトンタッチが行われた。予算計画、設計、工事、運営の各フェイズでの課題、利用者である学生、教授陣、学校スタッフがそれぞれの立場での主張を調整し実現させた努力は高く評価される。チームワークと、歴史的な学校への愛情・思いやりが発揮された計画である。受け継ぐべきものは物・建物ではなく精神である。その共通認識が建築の質へ大きく影響を与え、創設の理念を失いかけたキャンバスの再生に成功している。
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