15回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

一橋大学 兼松講堂

所在地 東京都国立市中2-1
竣 工    1927
改 修    2004
用 途 講堂(改修前後とも)
所有者 国立大学法人 一橋大学
改修設計者 且O菱地所設計
改修施工者 樺|中工務店

 兼松講堂は、1927年伊東忠太博士の設計によるロマネスク様式の建築で、大学の象徴的な存在として大学関係者に愛され続けてきた建物である。2001年、建築後77年を経て建物の内外部に経年劣化による破損が目立ち始めたため、大規模修繕・補修のための健全度調査が行われた。2003年、調査結果により今回のリニューアル工事がおこなわれている。 
 外装はキャンパスでシンボルともなっているこの建物の外観を壊さないような修復を基本に復元に努力されている。
 また、内部はオリジナルなホール空間を残しながら、音響、空調などの機能改善に取り組んでいる。
 音楽ホールでの空調新設では、一般的に騒音に対して重装備になりがちであるが、演奏中は空調をとめるという割り切りを行い、オリジナルの内部空間デザインを損ねず、コストを掛けすぎないように配慮している。これは、ホール床が土間のため床下を活用した本格的な空調が困難であったことと天井や外周壁を使った空調のためには既存内装を大幅に改修する必要があることから、保存と機能強化のバランスをとった結果であり、関係者による適切な判断の結果といえる。
 外装については、この建物の特徴ともいうべきロンバルティア帯やアーチ型の連続窓、正面車輪窓を飾るマーキュリーなどオリジナルな仕上げを活かすことに重点をおいてリニューアルしている。屋根の既存洋瓦を活かした前面葺き替えとスクラッチタイル、テラコッタなどの剥落防止対策、伊東博士の設計した建物の特長とも言うべき様々な「もののけの装飾」の修復を忠実に行い、創建時の外観が注意深く復元されている。  
 改修前、この講堂は座席の狭さや空調・音響・照明設備の陳腐化に対し利用者からの不満も多く、利用も限られたものであったが、改修後は講演会・演奏会などで毎日利用されるようになり、名実共に大学関係者に親しまれ、愛される建物に変貌をとげている。
 今回の工事が、同窓会組織「如水会」を中心とする寄付で行われたことが、この建物が大学の象徴的な存在で大学関係者に愛され続けてきたことを示している。改修後は運用管理を大学の施設課が中心となって行い、築後100年の利用を考慮した長期修繕計画を立て実施している。創建時の姿に戻り、音響や空調設備、便所などの諸機能が改善されて利便性が向上したことで、この建物が新しい歴史を末永く刻み続けることを期待したい。