第14回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

巴川ビル

所在地    東京都中央区銀座3-7-1
竣 工    1920年頃
改 修    2000
用 途    事務所(改修前)
              飲食店(改修後)
所有者    (株)キハチアンドエス(内装・設備)
     大成建設(株)(建物)

改修設計者 大成建設(株)
改修施工者  大成建設(株)

 この建物は大正年間に銀行として建てられたもので、関東大震災と先の戦争をくぐり抜け、その後も事務所として使用しつづけられていた。平成10年、使用者が立ち退き、建物の老朽化が一段と進み、解体を待つばかりの廃屋と化していた。

 “キハチチャイナ”が、立地もよくレストランとしても適当な建物規模を持つこの建物に白羽の矢を立てた。なかでも外観のレトロな佇まいが気に入られ、既存の外観をそのまま利用した改修が望まれている。

 既存のサッシュはスチール製で腐食もかなり進んでおり、機能面、安全面からの改修を余儀なくされた。改修手法としては既存外壁の損傷を極力おさえるためにカバー工法によるアルミサッシュを選択、またレトロなイメージ演出のために透明ガラスに代えて、大正ロマンを彷彿させるステンドガラスがはめ込まれている。

 関東大震災と先の戦争をくぐりぬけたとはいえ、構造の耐震診断では耐震補強が必須となった。各階にわたるRC壁による通常の補強のほか、道路に面していない裏側壁の2面に鋼板による全面補強を施している。また事務所から店舗への用途変更による積載荷重の増加と基礎負担荷重の軽減という課題に対しては“5階のスラブ解体’’という方法を選択している。この解体で生まれた吹き抜けはレストランの空間演出にも一役買うことにもなっている。

 設備は老朽化が著しく、インフラと機器類はすべて全面更新となった。ゾーニング上の理由からメイン厨房を1階に配置したため、各階へのサービス用に合計5台のダムウェーターが新たに設置されている。階高が低く、特に空調関係の工夫が多く見られる。機器類を屋上に集めメンテを容易にし、設備配管、ダクト関係を道路からは目立たなく納め、特に4階吹き抜け部の部屋内の噴出し口は、耐震補強のため周囲に残したスラブを使い、違和感の無いように旨く納められている。

 廃屋同然と見られていた連物の外観に対して価値を見出し、その価値を再生させ、ビジネスに生かそうとしたテナントの着眼力と構想力は高く評価される。また、そのコンバージョン構想を短期間に限られた費用の中で実現させた設計と施工の技術も評価に値する。