第28回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

マリンワールド海の中道

所在地

福岡県福岡市東区大字西戸崎18-28

竣工

1989年(T期)、1995年(U期)

改修年

2017年

建物用途

水族館(博物館相当施設)

建物所有者

国土交通省九州地方整備局、マリンワールドPFI [PFI事業者]

改修設計者

鞄建設計、大成建設梶A葛纉d工

改修施工者

大成建設梶A葛纉d工
 飛行機が玄界灘上空から福岡空港に向けて高度を下げていくとき、窓から右手を見下ろすとこの建築が見える。半円形の平面を持ち、折り紙細工の様な白い幕屋根に覆われたその姿は、玄界灘と博多湾を隔てる砂州である海の中道のなかにあって貝殻の様にも見える。そのイメージは1989年の竣工(T期)当時から変わっていないが、中身は一新されている。
 施設や設備の老朽化、展示内容の陳腐化により入館者も減少傾向にあったことから、2014年に国土交通省九州地方整備局から国営公園初のPFI事業が公募され、地元企業を中心とするSPC(特別目的会社)であるマリンワールドPFI株式会社が選定された。施設の長寿命化とLCCの低減を図り、地域とともに持続的に発展することを目指して、SPC関係者と水族館で働くスタッフ、改修設計者、改修施工者が一体となり展示内容の刷新、設備の更新に取り組んだことが、リフォームオープン後は従前に比べて1.7倍の入場者数に繋がっていることを、高く評価したい。
 まず、入館してすぐ目に飛び込んでくるのは、幕屋根を通した柔らかい光に包まれたエントランスホールの開放的空間である。以前この空間を占拠していたカフェテリアを大胆に撤去し、水景として滝と木ルーバーと緑をあしらった空間が、今から体験する展示への期待感を高める。次に、2層分の円柱水槽を完全撤去して造られた半アーチ状で長さ5mのトンネルのようになった「玄界灘水槽」に驚く。断続的に500?の海水を投入して玄界灘の荒波を視覚と音と光で演出し、一気に九州の海の世界へいざなう演出効果があり、その後の展示への期待感が膨らむ。その他各ブースとも様々な工夫が成されており、小さなお子さんの目線にも十分な配慮がうかがえる。老若男女を問わず楽しむことができ、来館者の大幅アップからも期待を裏切らないことが頷ける。
 展示の刷新にあたっては、将来の更なる更新を見越して軽量化・乾式化が図られている。既存の比較的小規模なRC水槽は、FRPなどで構成される工場製作によるユニット水槽へ置換され、観覧空間とバックヤード間の間仕切りはRC壁から乾式間仕切りとするなど、スケルトン&インフィルを意識したものとなっている。
 また、24時間稼働する水族館ならではの、エネルギー消費特性に対する省エネの取組みにも注目すべき点が多い。既存の水槽熱源は様々な水温に対応して大規模なものであるため負荷が過大となっていたため、熱源の効率化として、これを年間水温15℃の維持が必要なラッコ用、外洋大水槽用、イルカプール用などの用途に分けて熱源機器を分散設置することで、大幅なエネルギー量の削減を実現している。水の効率的運用については、外洋大水槽のオーバーフロー水の高低差を利用したサイフォン効果により、無動力で別のプールへ供給し、全体の排水量とエネルギー量の削減を実現している。
 幕屋根部分に関して建築基準法旧38条認定を受けていたことからくる制約や構造耐力の制約がある中で、この建築にこの様なリフォームを実現したことを高く評価する。現場で働くスタッフの皆さんが知恵を出し合い運営にとり組んでいる姿が印象に残った水族館であった。

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