第19回BELCA賞ロングライフ部門選考講評

 BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

 第19回BELCA賞には、昨年度と同数の応募物件があり、ロングライフ部門の物件数は多少増加したが、表彰物件数は、昨年と同じ4件となった。これら4件とも、増・改築、改修が行われているが、用途変更はなされていない。4件のうち2件は、事務所ビル、研究開発センターと用途は異なるものの、いわゆる自社ビルであり、残り2件は大学、中学校・高等学校と教育対象は異なるものの、学校施設である。最終委員会で、選外となった物件に対し"昨年度であれば表彰物件に該当したのでは"という意見が多く聞かれたような激戦を勝ち抜いた表彰物件だけに、4件すべて、設計・施工・維持管理に携わった方々の努力、所有者の建物に対する愛着の強さの面から、ロングライフ建築のお手本ともいうべき物件である。

 「NTT横須賀研究開発センタ」(1972年竣工)は、日本の情報革新のため、先行的な研究開発を行うことを目的とし、NTTの前身である日本電信電話公社が第二電気通信研究所として計画、設計したものであり、1977年に増築され、現在でも、ブロードバンドやユビキタス社会への対応、多彩な技術とソリューションの提供のための研究開発に使用されている建物である。8本のシンメトリーに配されたコアに耐震要素と垂直導線、設備要素を集中させ、コア以外の大空間は、研究室、実験室などのレイアウト変更に容易に対応可能なように、すべての部位でモデュ―ル化されており、全面二重床の採用、大型自動車も通過可能な機械室の確保などとあいまって、最先端の研究施設であり続けている。外壁もメンテナンス・フリーの耐候性材料を用いており、設計当初からの各種ロングライフ化への取組み、中長期修繕計画に基づく適切な維持管理と省エネ対策など、幅広い観点からロングライフ建築の手本として評価された。

 「住友スリーエム本社ビル」(1974年竣工)は、竣工時、田園風景の残る環状8号線沿いという郊外に建つ、先駆的な本社ビル建築として注目された建物である。東西面に、主要導線やサービス諸室、会議室、個室対応スペースとして利用されるRC造コアを配置し、両コアを地下のベルトトラスと最上部のハットトラスで繋ぎ「ロの字型」架構を形成して剛性を確保し、中央部に約21mの大スパン鉄骨梁の事務室を形成している。東西のコア部外壁は、開口部を限定することにより、西側幹線道路からの騒音および西日を遮っており、騒音対策、冷房負荷低減に役立っている。一方、南北のコールテン鋼カーテンウォール部の開口は、横一面に広がり、大きな、気持ちのよい眺望を楽しめるものとなっている。1992年の増築時も、オフィスニーズに柔軟に対応することが可能な基本オーダーを踏襲し、さらに、本館・新館の間に設置されたガラスボックスが社員の憩いの場として活用されていること、社員一丸となって維持・管理に取り組んでいること、数値目標を定めての省エネを行っていることなどが高く評価された。

 「北海道大学農学部本館」(1935年竣工)は、竣工翌年に第2期工事が完了、大戦による一時中断を経て戦後数度の増築を重ね1960年に概ね現在の姿になった。スパニッシュ様式の、中央時計塔の中心性と両翼に広がるウイングの対比による古典的施設構成は、北海道大学のシンボルであり、全キャンパス人の心象風景となっている。2008年にPFI事業として行われた改修では、"「時間が作り出した表情」を継承し歴史景観を保存する""時代の変化に柔軟に対応できる最新の教育研究施設としての内部機能を備える"ことの2つを柱にしているが、見事に目的を達成している点が高く評価された。安全性確保、省エネ・省資源化、バリアフリー化など時代の要請に従った改修を忠実に行っている他に、外壁の窯変スクラッチタイル劣化箇所の張替えに用いたタイルとして、焼成温度を上げ凍結融解に強くしたものを用いているにもかかわらず、既存部分と違和感のないものにしていること、多数存在する小割の研究室の中廊下出入り口近傍に充分な大きさの設備シャフトを確保・新設し、将来にわたる研究内容の変化に対応するとともに各室毎のエネルギー使用量管理も可能としていることを評価する者が多かった。

「武庫川女子大学附属中学校・高等学校校舎棟」(1963〜65年竣工)の建設は、武庫川学院創設者である公江喜市郎氏から示された「理想的な女子学園をつくる」との基本方針と、過去の固定的なイメージにとらわれない設計という要望に基づきスタートした。校舎棟はクラスター状に配置され、管理棟、科学館、体育館で構成される中心軸の左右に中学校校舎3棟、高校校舎3棟を配する構成で、渡り廊下により緑豊かな中庭を介して連結されている。シンメトリーな整然とした構成美を見せる教室群は完成度が高く、時代の変化に対応可能なように施設整備のための校地が確保されているなど長期的視野に立った計画となっており、正門横にある芸術館は、築74年を経た元鳴尾競馬場本館を再生整備したもので、豊かな心を育む教育環境づくりに役立っている。維持保全は、安全性への配慮と利便性向上を重視し、中期保全計画書に基づき実施されているが、兵庫県南部地震の震災後、復旧工事に合わせた給排水、電気、空調などの大規模な改修工事が適切に行われていること、IT化対応、身障者対応などにも積極的に取り組んでいること、そして、何よりも創設者の思いが現在の学校関係者に引き継がれ、改修設計・施工者にも伝わっている点が高く評価された。
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