第18回BELCA賞選考総評
BELCA賞選考委員会委員長  内田祥哉
 BELCA賞は、良好な建築ストック、つまり社会の中で生き生きと活用される建築の形成に寄与することを目的に設けられた賞である。賞を二部門に分け、周到な長期計画で、安定した維持保全を継続しているものをロングイフ、巧みな改修によって、嘗て活躍した建物を現代社会に蘇生させたものをベストリフォームとし、表彰件数は平成3年以来前回まで、166件に達している。

 ロングライフ部門では、所有者、設計者、施工者、維持管理者の四者を、ベストリフォーム部門では、所有者、改修の設計者、施工者の三者を表彰しているが、地球環境問題にともなう建築物の長期利用の気運を背景に、BELCA賞への関心は年々高まりつつある。今回は、ロングライフ部門4件、ベストリフォーム部門6件、合わせて10件を表彰することになった。

 今回表彰されるロングライフ部門には、戦前の百貨店と事務所を代表する建築と、戦後の日本建築界を代表する教会と鉄塔が選ばれた。いずれの物件も、竣功以来、関係者の深い愛情と不断の努力で現在まで活用されてきたものである。

 ベストリフォーム部門では、公共通路、銀行、設計事務所ビル、研究所、社員クラブ、校舎と、多様な物件が選ばれた。今回のベストリフォーム部門の特徴は、基本的な用途を変更した物件がない点で、見方によればロングライフ部門としても不自然でない。用途変更が無いにもかかわらず、ベストリフォームに応募されたのは、耐震補強、設備の更新、性能のグレードアップなど、時代の要請を反映した改装や、性能の改善が、通常の維持管理、補修の域を超えているためであろう。すなわち、リフォームの過程ではデザインの歴史的復元、室内環境の試行的改善、床を抜く減築、中庭に架ける屋根など、抜本的改築技法が採り入れられている。

 嘗ては、優れたデザインの耐震補強だけでも注目すべきリフォームとされたこともあった。だが、昨今はそれだけでは珍しくなく、それ以上の付加価値が、選考過程で求められるようになった。本年の応募物件は水準が高く、選考は、これまで以上に困難なものとなった。今後、此の方向の技術開発が、一層多角的になると、応募作品の水準も、ますます高まることが予想される。

 BELCA賞も18回を重ね、各地への周知も広まっている。しかし未だ受賞物件のない県が15県あり、建物の維持保全技術を全国的に普及向上させようとする本賞の趣旨から、これら未だ受賞のない地域からの積極的応募が期待されている。

 今回表彰される物件が、我が国の優良な建築ストック形成に寄与することを確信するとともに、建築物の維持保全に日夜努める関係者各位に対して、深い敬意を表したい。