第18回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評 |
第18回BELCA賞ベストリフォーム部門は応募建物の用途の幅が広く、改修の要素技術も多様化し、精緻化している傾向が見られた。改修して建物を大切に使うという概念がますます広がっていると思える。受賞した事例をみると、近代建築初期のレンガ造の迎賓館、地域で初めてのRC造の銀行、昭和30年代中頃経済の高度成長初期の事務所と駐車施設、昭和50年代オイルショック直後の民間技術研究所、大学の文科系研究施設など建設の背景も用途も同じものはない。耐震補強の技術や環境配慮の技術もさまざまで、研究開発技術が実を結んできていると思われる。また、デザインを含め全体にリフォーム設計の優れたものが多かったという印象が深い。 「行幸地下通路」(1960年竣工、2007年改修)は皇居と東京駅正面を結ぶ行幸道路の地下1階に実現した都市計画通路で、周辺のビルとも接続する自由通路である。従来は駐車場だったところで、地下2階は現在も駐車場として機能している。通路の両側には展示スペースが設けられ、地上と結ぶ階段やトップライト、並木根鉢などを活用して耐震補強も巧みに実現している。朝夕の雰囲気演出の照明や環境配慮型空調など設備計画も優れ、公共的都市施設と建築が一体となった丸の内中心地区のすぐれた都市整備である。 「静岡銀行浜松営業部本館」(1928年竣工、2007年改修)は、静岡で初めてのRC造の遠州銀行本店として建設され、長く市民に愛されてきた建物で、現在は浜松市指定文化財になっている。この改修の特質は旧館の中央吹抜け部分を来客ロビーに、周囲の天井の低い部分を営業事務スペースに変えたことと、新館との接合部に4階吹抜けの新しいロビーを設けたことである。建物に入った人々はこの仕組みによって旧館の内外をゆっくり楽しむことができる。旧館の設備を目立たなくした空調の成功もこの二つの特質を巧みに活かしたすぐれた改修設計によるものである。 「大成建設 技術センター本館」(1979年竣工、2006年改修)は主として研究者のデスクワークと本部機能をもつ建物で、今日的要請の機能向上を総合的に実現した改修である。特徴は専門分野別に孤立しがちなところを中心部に吹抜けを設け、視覚的心的交換を日常化し、研究者の交流を促進することに成功していること、自ら研究開発してきた耐震補強・環境配慮の諸々の技術を集中的に適用しモデル化していること、これらの統合が洗練された空間としてまとめられていることで、改修として高く評価される。 「綱町三井倶楽部」(1913年竣工、2006年改修)はJ.コンドル設計の20世紀初頭の代表的建築で、建物を将来に亘って保存活用するため今回の大改修が行われた。特徴はレンガ造の上部躯体への地震入力を低く抑えるため1階床版と基礎梁を補強し基礎免震技術を用いたこと、往時の写真や図面を綿密に調査しオリジナル空間を復元したこと、今日の迎賓館にふさわしい施設にすべく設備計画にも工夫を凝らしたこと、さらにこの改修を建物を使用しながら部分的に少しずつ実施する工事上の難題を克服したことで改修設計と改修工事のレベルが極めて高いと評価される。 「東洋大学朝霞校舎実験工房棟」(1979年竣工、2005年改修)は旧文化系研究室棟を新学部、新学科の工学・デザイン系教場として再生した好例である。特徴は堅牢なRC間仕切り壁で細かく区画された空間を少人数教育のスタジオとする教育ソフトを対応させて活用していること、中庭に屋根を架け、実験・制作、議論・講評の場として3層全体をまとめるアトリウム空間を実現していること、各所に手づくり感覚のある仕上げや細工を施し、すべてを教材化、教具化していることである。実習施設としてソフトとハードを見事に調整し、再生した秀作である。 「松田平田設計本社ビル」(1960年竣工、81・89年増築、2006年改修)は創建当時の時代背景の中で実現した階高の厳しい(2.9m)事務所棟とそれに合わせて増築された全3棟をまとめて再生した好例である。特徴は既存の棟の位置や高さの違いを活かしながら中心部に横ずらし3層吹抜けを床を抜く減築という手法で実現し、全体に開放感を創出したこと、自然光の採り入れ、自然換気、屋上緑化、断熱性向上、省エネ機器の採用、耐震補強など各所に環境配慮の要素技術を駆使し、これらを巧みに統合したことである。昭和30年代の建築を取り壊さず、今後50年の継続利用を目指して改修された秀作である。 (本稿は、平成21年2月25日に改稿しました) |