15回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 第15回BELCA賞ベストリフォーム部門には、多数の応募があり、書類審査による1次選考から激戦となった。さらにこの部門はリフォームの概念が広く、内容が多様で選考には苦慮するところが多かった。建物の用途が変り、内装も外観も一新されて、まるで新築建物と思えるものから、用途も変らず、内外装も殆んど従前通りで、一見しただけでは良く保全されている建物と思えるものまでさまざまなリフォームがある。
 今回の表彰物件では、東京大学赤門総合研究棟と新潟日報社ニュースセンターが一新されたリフォーム型で、旧第四銀行住吉町支店、国立国会図書館国際子ども図書館及び横浜郵船ビルは主用途の変更はあるものの建物としては保全型で、一橋大学兼松講堂は主用途変えのない保全型である。もちろん保全型といっても現代の使い手が快適と思うレベルまで検討を重ねて忠実な手を加えることは容易なことではなく、優れたリフォームであることには違いない。

 「旧第四銀行住吉町支店」(1927年竣工、2004年改修)は都市計画道路の整備のため除去されることになった建築を、市民の熱心な保存運動が契機となって新潟市が移築保存した建物である。移築に際し、外装の石材や内装の造作材を位置や寸法も従前通りそっくり移築されている。天井や壁上部の漆喰や石膏彫刻も切断して運び、下地の耐火処理の上、もとの位置に正確に取り付けられ、風除室やカウンターなど非耐力壁の一部は、仕上の大理石をコンクリートと一体のまま切りとって移し、復元している。なお外装の石材は仕上材で、内外装材の間に新たな構造体となる現場打ちの鉄筋コンクリートが形成されている。このような忠実性を踏まえた復元の工夫と努力が建築の文化財としての価値を高めており評価されるものである。


 「国立国会図書館国際子ども図書館」(1906年1期、1929年2期竣工、2002年改修)は旧帝国図書館として久留正造らによって設計された?字型の東翼が着工されて実現したが残りは中断されていた。そして戦後、増築が断念された建築であり、今回の改修にあたって、ルネッサンス様式といわれる創建当時のデザインを内外装とも極力保存することを前提に、新しい国際子ども図書館に用途変えしたものである。床や家具に空調を仕込むとか、内壁廻りの床や中庭の増築部の外壁に透明ガラスを利用して創建当時のデザインを保存して見せるための工夫が凝らされている。また地下階に投入されたレトロフィット免震工法によって上部本体を効果的に保存するなど歴史的建造物の価値を保つリフォームとして優れている。

 「東京大学赤門総合研究棟」(1965年竣工、2003年改修)は竣工時は特徴のない平凡な建物であったが、東京大学のシンボルである赤門に最も近く、ネオゴシック様式といわれる図書館や医学部本館に近いという立地を配慮して、今回耐震補強の機会を捉えて北側銀杏並木側のファサードの意匠を意識した現代的手法のデザインで改修した優れたリフォームである。また南面の耐震補強も四角のスチール枠を柱梁の躯体の内側に接着工法で嵌め込むデザインも優れている。内部は既存の雑壁を撤去してフレキシビリティの高い大きな空間を確保し、可動間仕切を用いて研究室や会議室、あるいはゼミナール室を創りだしているが、これらは将来の可変性も示唆するものであり、教育・研究棟として適切なリフォームである。

 「新潟日報社ニュースセンター」(1992年竣工、2004年改修)は新築後間もない印刷工場棟を、施設拡充のため社内のさまざまな協議を重ねて、編集・製作局を中心とするオフィス業務を行うニュースセンターに変身させたものである。外観も新しい印刷センターと調和するよう最上階の4階の外壁を黒に、3階以下を白とするツートンの引締まった一体的な装いとなっている。苦労して実現した前の印刷工場に愛着をもつ社の人々が、取り壊し撤去を選択せず、苦労の多いリフォームを選ばれたと聞いているが、そうした建物は今後も大切に使われるであろう。

 「一橋大学兼松講堂」(1927年竣工、2004年改修)は伊東忠太の設計によるロマネスク様式の建築で、大学のシンボルである。今回の改修は、ほぼ80年振りに同窓生の寄付による資金によってリニューアルが実現した。原設計のデザイン、内外部の仕上を大切にしながら、座席の幅を広げ、空調、照明、音響の質をあげるなど補修工事によって快適な空間に整備・保全したリフォームである。現在は殆んど毎日学生達が活用する空間に変った。外壁のスクラッチタイルやテラコッタの欠損部の補充も忠実な復元をめざして部品をつくり、成功している。

 「横浜郵船ビル」(1936年竣工、2003年改修)は横浜の近代化文化遺産といわれる建築が集中している地区にあり、保存的リフォームである。特に外観は16本のコリント式の列柱を有する堂々たるもので、この格調を保全するようアルミサッシをスチールサッシュに戻したり、ウインドークーラーを全て外す改修を実行している。内部は1階を博物館の展示室に用途変えしているが、天井やカウンター、あるいは照明器具など忠実な復元に努めている。2階から4階はテナント用オフィス空間にリフォームしているが、1階のテナント専用玄関やエレベーターの新設も違和感なくスムーズに納まっている。