第14回BELCA賞ロングライフ部門選考講評
BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康
第14回BELCA賞ロングライフ部門には、例年どおり全国から、優れた維持保全を行い、現在でも有効に活用している物件の応募をいただいた。1次の書類審査を通過した建物に対し、2次の現地審査を行い、厳正な審査の結果、以下の5物件がBELCA賞ロングライフ部門の表彰物件として選定されたが、1981年竣工の物件が最も新しいものであり、戦前竣工の2物件を含んでいる。ロングライフ部門の募集条件が、次回(第15回)から“竣工後30年以上を経過したもの”に変更されるが、そのことによって応募物件数が減少するのではという懸念を払拭させるような結果となった。
「大阪芸術大学塚本英世記念館/芸術情報センター」(1981年竣工)は、単なる大学図書館の枠にとらわれることなく、芸術に関する様々な情報を収集し、研究に使用するとともに、それらを活用して新たな情報を発信できる施設として計画された建物であり、外壁ばかりでなく、建物内部の壁、天井、ダクト、階段など、ふんだんにコンクリート打放し仕上げが採用されている。外装および内装とも、極めて精度の高い密実なコンクリート打放し仕上げが行われたことから、竣工後23年経過した現在でも、ほとんどメンテナンスフリーで竣工時の状態を維持している点が、まず高く評価された。また、建設当初より最新の設備機器・機材が導入されていたため、大幅な設備更新を行うことなく使用され続けている。
「大阪女学院 北校舎・チャペル」(1951年竣工)は、終戦時、焦土の中で再開を諦めかけていた学院関係者が、父兄の声に後押しされ、授業再開に向けて生徒、父兄とともに手造りで再建に立ち上がった熱意に対し、米国教会の援助がなされ建設されたものである。所有者である大阪女学院、設計者である一粒社ヴォーリズ建築事務所、施工者である竹中工務店の3者が一体となって運用管理計画を立て、計画にもとづく点検・維持修繕が丁寧に続けられたことが、高い評価を受けた最大の理由といえる。築後30年目に設備の充実、外装サッシュの取替えの大規模修繕が、50年目に耐震補強工事と電気・空調設備、教育設備の更新が行われるなど、絶え間ない努力を続けている。北校舎の耐震補強では、オリジナルデザインを尊重した上で、既存外壁面にRC造外殻フレームを新設する手法を採用し、成功している。
「学校法人 星薬科大学 本館」(1921年竣工)は、アントニン・レーモンド設計による、当初は屋内プールを持つ、アメリカンスタイルの趣のある商科学校の校舎であった。終戦後は一時GHQの施設として利用され、大学に返還されて以降、再三の改修を経て使い続けられ、2002年に最低100年は使い続けることを命題とし、耐震補強を主目的とした大規模な改修が行われている。建物平面の特徴を活かし、耐震壁をメインホールの4隅廊下、水廻りなどに配置し、外壁に設けることなく原設計の外観を確保しつつ耐震補強を行っていること、汚れにくくなるようディテールの改良を行っていること、設備的な改修では、見え掛かりに十分配慮しつつ、環境・機能の改善を行っていることなどが評価された。
「天照皇大神宮教 本部道場」(1964年竣工)は、コンクリート用骨材の採取、打放しコンクリートの打設、石積み、コンクリートブロックの製作などが、教団教祖の指導により、素人同然の同志の労務奉仕によって行われ、建設された宗教法人の本部道場である。新築時に、理想的かつ高い水準で成立した施主、設計者、施工者、3者の連携が、今日まで継続している点が高く評価された。築後30年経過した時点で外壁面の水洗いおよびフッ素樹脂塗装を行い、トップライトの交換を行っている以外、大幅な改修は行われていないが、維持保全にかかわる人々の努力により良好な状態に保たれている。
「三越本店本館」(第1期、1914年竣工)は、鉄骨カーテンウォール式煉瓦造で、エスカレータ、エレベータ、スプリンクラー、暖房換気など、当時最新の設備が設けられた第1期の建物に、1964年の第6期まで増・改築が行われた百貨店であり、物販店舗、飲食店、ホール、劇場などの用途からなる。1914年以降、常にそれまでに築かれてきた資産を大事にしながら、一貫性をもって増・改築を重ねてきた姿勢および建物外観や機能を損なうことのない免震化工事の計画などが高く評価された。また、建築主ばかりでなく、維持管理者、設計者、施工者が一体となって、良好な人間環境のもと、建物に愛着・愛情を共有し、かつ時代の要請に合致した運用を行ってきている。