第13回BELCA賞ロングライフ部門選考講評
BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康
第13回BELCA賞ロングライフ部門には全国から優れた維持保全を行った物件の応募をいただいた。竣工年代別にみると、1980年以降に竣工した物件が過半を占め、平成17年度(第15回)から変更されるロングライフ部門の募集条件"竣工後30年以上を経過したもの"に該当する物件は少数にとどまり、受賞まで至った物件は1件となった。比較的新しい建物の応募が多かったといえる。1次の書類審査を通過した建物に関し、2次の現地審査を行い、厳正な審査の結果、BELCA賞ロングライフ部門の表彰物件となったのは、以下の5物件である。
「MOA美術館」(1981年竣工)は、竣工時に、壮大な構想の美術館、エスカレーターを大量に駆使して来訪者を山上に導くという思い切った発想で話題となった美術館である。長期の維持保全計画に基づいて、ほぼ完璧な維持保全がMOAグループの専従職員によって行われ、さらに、年間4500人もの「アート・ボランティア」が館内案内や清掃にあたっている点が高く評価された。また、光ファイバーケーブルの高速・大容量化、氷蓄熱設備の採用などによるIT化対応や省エネ対応も行っている。
「ザ・シンフォニーホール」(1982年竣工)は、現在の日本でも数少なく、竣工当時にはより希少価値のあるクラシック音楽専用ホールとして建設された建物である。残響時間2秒を実現するため、模型実験を含めた詳細な検討の末に建てられた建物であり、このホールの音響性能の維持を第一優先課題として、音響反射体・拡散体の維持・保全、客席の木製椅子の張り替え、発生音対策を考えての設備改修などが極めて着実に行われてきた点が高く評価された。また、計画当初考えられなかった女性聴衆の増加に伴う女子便所の増設、休憩時間をより充実させるための諸施設の改修なども違和感なく成功させており、設備機器設置スペースに余裕があったため設備改修も無理なく行われている。
「新青山ビルヂング」(1978年竣工)は、商業とオフィスの複合ビルであり、周辺の街並みに溶け込むように配慮した人工地盤の広場をもち、ツインタワー状の形状をした、地域冷暖房、中水施設を含んだ建物である。オフィス内部の梁背をすべて 600mmに抑え、梁下でダクトや配管の取り回しを可能とした構造方法をとっていたため、時代の要請に応じて中廊下式のオフィスを大部屋形式に容易に改修できたこと、OAフロアの導入に際し、空調システムを改修し逆に天井を高くし、高効率照明器具を積極的に採用し照度を向上させるなど、室内環境の改善にも常に取り組んでいることが高く評価された。また、綿密な維持・管理計画のもとに維持・管理が行われており、設備機器設置スペースが余裕をもって計画されていたため、更新・改修が無理なく行われている。
「世界貿易センタービルディング」(1970年竣工)は、"世界貿易と交通に関するセンター"として、霞ヶ関ビルに続いて東京で2番目に建てられた超高層ビルである。竣工後10年目に中期修繕計画を立案、20年目には第一次リニューアルを実施、40年目の2010年には第二次リニューアルが計画されるなど、長寿命化に対する堅実な考え方が高く評価された。また、フレキシビリティの高いセンターコア方式、余裕のある設備スペースなどの当初の妥当な計画から、維持・管理・更新が無理なく行われており、さらに不要になった電話交換室を転用してのITサーバーセンターの設置、太陽光発電設備やガスタービン・コージェネレーションの導入など、適切なIT化対応、省エネ対策を行っている。
「三輪そうめん山本本社」(1983年竣工)は、"目立たない建物、人々が寄り付きやすく親しみやすい建物"をコンセプトとして建設されたが、竣工後3期に亘っての増築を重ねても、その配慮が見事に効果を発揮している点、建設当時から続いている、建築主、建築顧問、設計者、施工者の連絡体制、清掃や簡単なメンテナンスは社員自らが行う体制などが高く評価された。また、雨水貯留槽により周辺環境に配慮しており、瓦葺きの精度・鋼製建具のディテールが現在も建設当初の精度を保っている。
以上5件の授賞物件は、当初計画が妥当であったもの、維持・保全が計画に従い、堅実に、かつ熱意をもって行われたものであり、真の意味で"幸せな建築"と呼ぶにふさわしいものばかりである。