第13回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 今回のBELCA賞ベストリフォーム部門にも多数の応募をいただき、はじめから競争の激しさ、審査の難しさが予想された。しかも前々回以来、選考の過程ではベストリフォーム部門とロングライフ部門を区別せずに審査を進めることとしているため、競争は一層激しくなる。両部門を区別せずに審査を進める理由は、部門間の区分が明確化しにくいからであり、特に「リフォーム」の概念の幅が広いベストリフォーム部門に応募されたものの中には、ロングライフ部門の方がふさわしいかあるいはロングライフ部門に限りなく近いと思われることが度々ある。従って今回もロングライフ部門の応募を含め全応募物件を対象に一次審査を行った。続く二次審査(現地審査)も両部門の区分をせず、現地の状況を確認しながら、審査側で方針をだし、応募者と協議して判定することとした。結果として選ばれた10件は、応募者の応募区分通りの両部門それぞれ5件ずつとなり、今年度のBELCA賞が決定した。BELCA賞ベストリフォーム部門の受賞作は以下の通りである。
 「旧古賀銀行」は明治39年に竣工した擬洋風建築で、一見レンガ造のように見える外壁はタイル貼の木造の建築である。構造の木部が雨水の浸透による腐敗が著しく、取壊しを勧める声もあったが、明治・大正期にかけての金融施設建物が昭和時代を通して街のシンボルとなり、市民の愛着も深く、街並み形成の重要な建物として保存され展示施設に生れ変わった。今回のリフォームで主室を吹抜の空間に戻す作業や木造骨組の外側に平瓦を張り詰め、その上にタイルを圧着する原仕様を、実験を重ねて再現した努力などが讃えられる。
 「群馬県昭和庁舎」は昭和3年に佐藤功一の設計で建設された優れた建築であり、新庁舎の建設に伴い、県民利用のための施設に用途替えして保存されたものである。今回のリフォームは影響の最も少ない部分に効果的な耐震補強を行い、必要な設備機能を巧みに付加し、内装はオリジナルのもつ風格を残す配慮がされている。その中には、更なる活用とリフォームを未来に託す意図も感じられる。昭和10年位までのわが国の庁舎は、豊かさを感じさせる建物が少なくないが、それらの扱いのモデル的手法を示している建物といえる。
 「ノリタケの森」は、明治37年の創業以来活動し続けてきた工場施設の改修と一部取壊しによって産業施設の記念碑的な展示施設として、新しい都市空間を創造した優れたリフォームである。JR名古屋駅にごく近い地域で、閉鎖的な工場施設を明るく活気のある開放空間に変えた意義は深い。かつての、工場の象徴であった煙突を新しい公園的空間のシンボルに変貌させたデザインは巧みで注目を引くものであった。
 「ふれあい横浜メディカルセンタービル」はホテルを医療施設及び福祉施設に用途替えした興味深い施設で、いわゆるコンバージョンのさきがけ的な成功例である。平成元年に竣工したばかりの、真新しい建築がホテルとして立ち行かなくなって、法律や空間の常識の壁を越えて進められた計画で、発注者と設計担当者さらに行政も加えた、建物を活かそうとする強い意図が、このプロジェクトを成功させたといえる。病院の救急部門、各種検査室、手術室などが、ホテル時代の婚礼部門、貸衣装室などのリフォームであることが意表をつくもので楽しい。
 「横浜赤レンガ倉庫」は明治44年及び大正2年に竣工した二つの港湾倉庫で、妻木頼黄の設計である。建築の形、ディテール、材料の選択等密度の高い建物である。横浜市は、これを港の空間とそれに因む産業活動の記憶装置として保存する努力を重ね、周辺の開発と一体的な商業業務文化施設として蘇らせた。そこで使われたデザインガイドラインとそのコントロールの手法が巧みで、原設計のデザインを壊さないという目的がよく達成されたリフォームである。
 ベストリフォーム部門で表彰された建物は、以上のようにその用途も歴史も異なるものであるが、いずれも周辺環境の保全と更新に努め、利用者や周りの人々に好感を与え、文化の表象としての建築を尊重する意図のあるものばかりであった。また、エネルギーや資源の節約を含め、地球環境の保全に貢献していることはいうまでもない。