第12回BELCA賞ロングライフ部門選考講評


BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 

 第12回BELCA賞選考委員会は前回に引き続き、終始ロングライフ部門とベストリフォーム部門に分かれることなく、両部門の物件を全員で審査した。改修や増築、空間のフレキシブルな変化や一部の用途変更などが加わってくると両部門の境界は必ずしも明確でなくなる。部門の属性に関しては原則として応募者の申請を尊重して審査を進めていった。

 今回は2次の現地審査を終えた後も、属性について問題となるものはなかった。その中でロングライフ部門に輝いた表彰物件は以下の通りである。

 「飯野ビル」は竣工以来、日比谷公園の緑に連なる白い颯爽とした姿が印象的で、イイノホールは多くの人に知られている。また地下の充実した商店街、地下鉄との直結などが利用しやすいビルとして多くの人に親しまれてきた。バランスの良い耐震壁の堅牢な構造は、今日も十分な耐震性を有している。外壁の清掃や時代の要請に応じた設備機器の更新は計画的に実施され、エネルギーの削減にも効果をあげている。ビル所有者、管理者、施工者が定期的に会合し、「ゆとりをもったビル」、「荘重なモダン」といった当初の設計思想をよく維持している。

 「中近東文化センター」は静かな住宅地の、緑の多い大学構内に隣接し、地上2階、地下1階の落ち着いた佇まいの建築で、周囲の環境とよく調和している。施設には博物館機能を備えており、要請により、これまでに増築も行われているが全く違和感がない。現在の耐震法以前の建物であるが、施設の重要性の認識から耐震性の高い設計であるが、増築を巧みに活かして耐震性を高めている。周辺環境、利用者の質、資金面や設計上の支援など建物の維持保全上、恵まれた施設である。

 「南山大学名古屋キャンパス」は小高丘陵の屋根と斜面を最大限に活かしたいわば自然共生型の大学であり、豊かな緑の中で学園生活が送られている。日照、通風を享受し、強い日差しを制御するルーバーは立面を引き締めると共に外壁を守る役割を果たしている。初めから設けられた尾根地下の共同溝は、今日までのさまざまな設備の更新に寄与している。設計の高い質と日常の手入れの良さが施設を経済的に長持ちさせている好例である。

 「日清製粉株式会社 鶴見工場工場本館」は関東大震災の翌年の施工で、工事中に震災に見舞われている。竣工後も粉塵爆発と戦災の二度の災難に対する復旧工事や、その後の床補強工事、耐震改修工事、阪神大震災後は、それを踏まえての耐震改修工事と幾度も手を加えながら、構造体を76年の長きにわたって維持している。さらに地盤の液状化に対する工事も既に計画されている。また、ここでは産業機械も省エネルギー化を計りながら、よく長持ちさせている。所有者、維持管理者の中に「手入れをして使い続ける文化」がよく生きている。

 「三井物産本店ビル」は、皇居のお濠側に設けられた池と茂みに毎年カルガモが育つことで親しまれている。建物はシステム建築として設計され、近代的なオフィスビルのプロトタイプといえる。すなわち3.2mのモデュールが建築と設備の計画全体にいきわたっており、時代の要請に応じて変化できるように構成されている。天井照明や床のタイルカーペットは維持メンテナンスシステムが、ディテールに裏付けされ設計されている。維持保全計画と長期修繕計画が作成され、当該年度は詳細維持保全計画のもとに実行されている。これらは建設当初からの設計者、施工者、管理者が参加した計画であり、関係者の努力は高く評価される。

 ロングライフ部門で表彰された建物は、その用途も、歴史も環境もさまざまであるが、いずれも建物の所有者や利用者に愛され、親しまれているものであった。いずれも設計者、施工者、維持管理者が建物の所有者に尊重され、維持管理計画の作成と実施に参加し、改修や更新など手を入れる場も、当初の設計思想が守られているものばかりであった。