第12回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評
BELCA賞選考委員会副委員長代行 清水重男
今回のBELCA賞の選考の特徴は、ロングライフ部門と、ベストリフォーム部門の区別を選考の時点では区別せず、選考を行ったことである。これは、従来、応募作品のなかに、どちらの部門で評価するべきか、判断に迷う作品が時々見受けられた事への対応として考えられた事である。
ベストリフォーム部門での応募はロングライフ部門を大きく上回る数であった。
これは最近の経済情勢の影響もあり、また環境への配慮の関心も高まった結果、建築の歴史的な価値に対する認識が高まった結果ではないかと考えられる。
応募作品はいずれも甲乙つけがたい作品が多く、書類選考の結果と更に現地審査を経て最終的には委員の皆さんの討論をへて5点を受賞作品として選定した。ロングライフ部門と結果的に受賞作品が同数となったのは、全くの偶然である。
「茨城県立図書館」は水戸市三の丸にあり、かつては県の行政地域の中心的な役割を担ってきた県会議事堂を県立図書館として再生したものである。議事堂としての空間特性を図書館という全く異なった機能へ、違和感をもたらすどころか、むしろ当初から図書館のためにしつらえられたのではないかと錯覚させるような再生が高く評価された。
「上越市市民プラザ」は新潟県上越市が竣工後10年を経過して移転した2階建てのスーパーマーケットの土地を購入し、建物を無償で引き受けて市民プラザとして再生2001年にオープンしたものである。通常ならば、取り壊されてしまう運命にある不用になったスーパーマーケットの建物をPFIプロジェクトとして、市、市民団体、民間企業が一体となって市民のための利便施設として、生き生きと蘇らせたことは、スクラップ&ビルドの風潮に再考を求める好例として評価された。
「新大手町」ビルは昭和37年に竣工したオフィスビルで、既に竣工後40年を経過しているが、更に現代のオフィスビルとして生き続けるために改修を行ったものである。改修の特徴としては外装の改修と同時にペリメーター空調のための配管を外部に付け加え、主に外壁側に改修工事を集中させてテナントヘの影響を極力抑えて工事を完了したことが評価され、旧外壁面を新しいカーテンウォール越しに僅かに見せるなど、過去の記憶をオーバーレイさせる事で既存の建物への配慮も感じられる作品である.
「新風館」は吉田鉄郎氏によって設計された京都中央電話局を専門店集積型商業施設として再生させたものである。歴史的景観保存の目的で残された鳥丸通りに面する重厚な建物に敢えて近代的な軽快なデザインを採り入れることにより建物に伝統と革新をバランス良く表現している。旧電話局の高い階高を二重床等を巧みに取り入れて増築部分の表現のオリジナリテイとしている事も評価される.
「ピーエス株式会社 オランジュリ」は大正8年に熊本市内で銀行の支店として建てられた建物であるが、その後いくつもの持ち主を経て生き残った。現在、有形文化財にもなっている建物であり、ロングライフ部門としても十分評価される建物である。その建物を現在の持ち主である空調設備機器のメーカーが自社のオフィスとショールームとして建物全体を使って見事に再生させた意義は誠に大きい。
ベストリフオーム部門の審査に当たっては、改修の結果、元の建物の良さを充分生かしながら、現在に相応しい機能に生まれ変わっているかが審査のポイントとはなったが、建物をきちっと活かして行くしっかりした維持管理体制ができているか、また地震等の災害に対して改修の際十分な配慮が払われているか等が審査の項目となった。惜しくも選にもれた作品にも大変立派なものがあったが、機能的なリフォームとしては素晴らしいが、耐震への考慮や管理体制の不備等で惜しくも選に漏れたものもあった。
リフォームの意義は現代のニーズに合わせて古い建物を蘇らせるだけでなく、次の世代にその成果を更に引き継いでゆくことではないか考える。