第12回BELCA賞ベストリフォーム部門


ピーエス株式会社 オランジュリ


所在地:熊本県熊本市中唐人町

用 途:オフィス・ショールーム・情報センター(改修後)

    銀行(改修前)

竣 工:1919年(大正8年)

改 修:2001年(平成13年)

所有者:ピーエス

改修設計者:トーベン・ビンドネス 他 

改修施工者:有限会社 サンワ工務店

      株式会社 伍代建設         

 この建物の数奇な運命に驚嘆させられる。熊本市内の坪井川沿いの旧商店街に、大正8年著名な設計者による第一銀行の九州初の支店として開設。地上2階・地下1階・RC造、外観はレンガと石材を使った大正期ののびやかなデザインで、地域のシンボルとして市民に親しまれて登録有形文化財にもなっている。その後、持ち主も地元金融機関、不動産業者へと変わり、1997年取り壊し計画に、市民や専門家が結束して保存運動を始めていた。

 解体寸前に、熊本出張中の空調設備機器メーカーのトップがその主旨に賛同して買い取り、外壁のみを残して自然利用と自社製品を組み合わせた最新設備システムを構築し、自社のオフィスとショールームとして見事に蘇生させた経緯は奇跡に近い。

 手始めに、社員自らの手で当初の姿へ戻すべく、内装材や間仕切壁、外窓の鉄格子等の除去を行ない、建物の特徴を把握した上で、本格的な改修基本方針を「熊本の気候風土と建物の特性を活かし、自然利用・省エネ技術・最少機械設備による質の高い室内環境の実現」、「築80年建築を次の80年間の存続」の二点としている。

 主な施策として、当初の構造をそのままにして、新規設備の設置と屋上スラブ支持補強のための2層箱状鉄骨フレームの挿入、3層吹抜けのダイナミックな空間演出と川側の地階外窓からの自然換気(給気ファン併設)のための地階への大階段新設、採光・換気のトップライトとその屋根上のソーラーパネル設置(10kW)、冷暖房システムとして井水冷却によるヒートポンプチラー3台と輻射パネル・除湿型放射パイプ設備、南面熱線反射ガラスと北面ペアガラスを入れたシンプルな外窓サッシと白色塗壁のモダンインテリアなどが挙げられる。

 今後は、冷暖房を体験できるショールームと企業テーマの「室内気候」の情報センターとして、展開を予定されている。

 小規模とはいえ、築後80年の建物が巡り巡って、最も相応しい企業のものとなり、その手で更に次の80年の存続へ挑戦していることは、正にベストリフォームそのものであり、賞賛に価する。