25回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物


神戸大学 六甲台本館・社会科学系図書館

所在地

兵庫県神戸市灘区六甲台町2-1

竣工年

[本 館]1932年(昭和7年)
[図書館]1933年(昭和8年)

建物用途

大学(本館・図書館)

建物所有者

国立大学法人 神戸大学

設計者

文部省建築課(新築)、国立大学法人 神戸大学(改修)、蒲゙設計室(改修)、
神戸大学名誉教授・工学博士 足立 裕司(改修監修)

施工者

椛蝸ム組

維持管理者

国立大学法人 神戸大学
 神戸高等商業学校が、昭和4年の大学昇格を機に、神戸港をかなたに見下ろす当該地へと移転した。六甲台本館と社会科学系図書館は国登録有形文化財の指定も受けており、継続使用しながらもほぼ当時のままの外観や内装が維持されている。キャンパスの全体計画としても、当初の建物を大切に活かした計画が継続され、当該施設は現在でも神戸大学キャンパスの核となる象徴的存在であり、新たな必要から建設された諸施設についても、旧学舎の持つ格調を損なうことのない配置や意匠の配慮を持って計画されている。
 これまでの継続的改修では、学内の専門家による監修のもと、実用的要請に基づく改修はできるだけ集約することで、改変を最小に抑えることを基本に進められている。また、毎年全建物を点検評価し、旧状を留めることを前提に随時修繕が行われている。外装では、スクラッチタイルの復元とともに当時用いられた工法からの改善や、高気密高断熱ニーズへの対応に向け鋼製サッシュの意匠をそのままにアルミ化を図っている。内装も、当時用いられた手焼きタイルの復元やステンドグラス、壁画の修復など、職人による技術の再現に挑みながらの困難な修繕に取り組んできた。
設備は今まで計画性のない部分的な改修に留まっていたが、今回の工事では現代の教育環境にあった計画が策定されている。外部の設備はファサードの風格を保つよう配置計画がされており、室内設備は露出の配線・配管を出来る限り集約し、復元された当初の内装意匠を損なわないようパネル等で覆うほか天井ルーバーで目隠しをするなど建物の価値観を深めている。将来に向けて適切な維持保全が出来るメンテナンス・スペースの確保やキャンパス全体の共同溝の見直しがされている。
 今後の維持管理に向け、「平成21年〜26年神戸大学(六甲台1)本館改修その他工事」において、施設の概要や修理方針・修理工法を報告書として冊子にまとめ、今後将来に亘り適切な維持管理のもと、当該建築の長期使用を担保できるものとしている。引き続き毎年全建物の点検評価を行い、随時修繕を進めていくこととされており、キャンパスの増床においては、既存建物における仕様や色彩の統一性を確保することを基本として、環境の維持に努めることが確認されている。
今回エントリーした建物は六甲台本館と社会科学系図書館となっているが、キャンパス内におけるこれら2棟の象徴性や価値を継続するために必要なことは、キャンパス全体で調和の取れた環境維持の実践であるとの認識に立ち、周辺建物のデザインコードの管理や全建物の修繕評価など、所有者が高い見識に基づき全体の施設維持と環境整備を継続している結果であることを感じさせられる。教育環境における歴史を感じるキャンパスの保存・継承は、ここを卒業した多くの人々の記憶に残り、これからも思い出を作り続けていく。

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