1930年、神戸に居住しカメロン商会を経営していたイギリス人貿易商、アーネスト・ウィリアムス・ジェームスが自邸を含め、イギリス人のための住宅地を神戸市西端塩谷の地23haに約60棟開発した。この地は、現在も通称『ジェームス山』と呼ばれ、良好な住宅地を代表する地名として地域住民に親しまれ続けている。
1934年築の旧ジェームス邸は瀬戸内海を望む広大な約12,000uの庭園の北側に位置し、内外部とも竣工当時の状態が維持されている、スパニッシュスタイルが特徴的な邸宅であり、阪神間を代表する近代建築として、地域のシンボルから地域に開かれた施設として甦っている。本邸宅は、その後企業の迎賓館として使用されていたが、2012年神戸市指定有形文化財に指定されると共に、同年12月以降レストラン兼結婚式場として利用され、現在では一般の方々が本館内の空間、庭園を体験できる施設となっている。
当時の個人住宅としては珍しくRC造が採用されている本館は、バランスの良い壁配置により、耐震性と耐久性に優れた構造となっており、阪神淡路大震災では一部の開口部や瓦が破損したのみで、大きな被害は受けていない。その後、外装はスタッコ壁・建具廻り・スペイン瓦が補修され、内部ではリビング天井補修、床フローリング研磨、既存照明の復元、既存家具の選別・再利用と文化財としての価値向上を目指し、あくまでオリジナル状態の保存・復元に留意されながら進められている。結婚式場機能として増築されたチャペルは瀬戸内海を望む庭園の南西端に、バンケットルームはプール跡に建築することで、本館の竣工時の建物配置や景観への影響を最小限に留める配慮もされている。設備に関しても、貴重な文化財に影響を及ぼさないことを基本に丁寧な改修が行われ、個別空調、防災設備の整備と共に、敷地と建物の段差解消を図るエレベーターの設置など、快適性・安全性にも配慮されている。維持保全についても、竣工時から現在に至るまで一貫して設計施工者に改修・補修を依頼すると共に、維持管理者と市文化財課を含む関係者間で協議し、長期間に亘る維持管理体制を構築している。また、今後30年間の詳細な維持保全計画が作成され、計画的なメンテナンスに活用されている。
今後、市行政と地域住民のもと、地域シンボルとして貴重な近代建築がサスティナブルに存続されることを期待する。
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