北九州市立戸畑図書館は、JR戸畑駅から徒歩10分の場所にある。建物は四周を道路に囲まれた開けた敷地にあり、象徴的な外観を良く現している。1933年に戸畑市役所として建設され、その後、北九州市役所、戸畑区役所として使用されてきた。2011年に図書館に転用され、2014年に耐震補強と全面的な改修工事を行っている。
永く地元のシンボルとして愛されてきた建物ではあったが、図書館の基本構想時に、改修工事によって使用する場合と新築した場合との比較を行っている。その結果、改修工事により、耐久性・経済性・機能性において遜色のない建物とすることができると検証している。
耐久性に関して、構造体は今後100年の使用に耐えることを目標に、既存躯体の健全化と耐震補強を行っている。まず、健全化工事では、全ての内装仕上げ材を撤去して徹底的な躯体の欠点洗い出しと各欠点に適した補修を行っている。さらに、将来に亘って適切な維持管理ができるよう詳細な記録を残している。また、耐震補強工事では、コンクリート躯体の増強に加えて鉄骨アーチを設置している。特に、アーチは単なる構造体としてではなく、空間を特徴づけるデザインとなっている。
外観は概ね当初の形を伝えているが、細部においては必ずしも忠実を目指してはいない。内部においては往時の様子をとどめるものはなく、スケルトンを基本とした内部空間にデザインされている。新設のトップライトや吹き抜けにより、白を基調とした明るい図書館となっている。館内設備は直近の改修でほぼ全設備が更新され、新築同等の機能が取り込まれ今後の長期使用に十分耐えうるものとなっている。露出設置された配管・配線・ダクト、照明・空調機器類は開放的な空間意匠と相まって違和感なく空間に溶け込み、今後の維持管理の容易性を生んでいる。その他、パイプシャフトの新設や屋外機器の配置においても将来の設備更新に対しての考慮がなされている。
用途が変わったにもかかわらず、巧みな改修によって新築以上に魅力的な建物としてよみがえらせた点においては、リフォームとしても充分評価できるものである。しかしながら、あくまでロングライフとして応募したところに関係者のこの建物に対する想いがある。極めて詳細な補修履歴を残していることや、間仕切り変更を前提にした維持保全計画から、今後100年使われる建築をめざす所有者と維持保全管理者の強い意志が感じられる。長期の継続活用が期待される建物である。
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