東郷の杜 東郷記念館

第33回BELCA賞 ベストリフォーム部門

西側外観(メインエントランス)
東側外観
2階テラス
屋上テラス
1階バンケット
2階ロビー
3階バンケット
内部階段

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 東郷記念館は1969年に開館、築50年を超える建築である。災害時の帰宅困難者支援など都市防災拠点としての機能を担保するために、耐震性能強化を行っている。

 高層建築物に囲まれつつ、豊かな水を湛えた池とボリュームのある緑の静謐な庭が前面に広がるというロケーションにある。池に面したテラスはアウトフレームの耐震鉄骨構造を採用している。この縁側的空間を表現したファサードと最上階の勾配屋根が、杜の景観の一部となり、かつ軽やかで新しい風景を創出することに成功している。新規に設けられた4階テラスの屋根には法的与件から「抜け」が作られているが、そのことが回遊性を生み、空間に変化をもたらしている。

 従前は単一の縦動線で、表裏が混在する動線計画であったが、エレベーターや階段のつけかえや外部エレベーター・階段の増築を行うことで、メイン動線とサービス動線をしっかりと分離し、表空間の質を運営面でも担保できている。またバリアフリー動線にも配慮した計画である。中央のらせん階段は、祭事への高揚感そのままに、落ち着を持ちながらも開放的で明るい創りとなっている。

 平面計画においては、庭園の緑や池の価値を最大限室内に引き込めるようゾーニングを行い、インテリアも屋久杉の突板など自然素材や木材を効果的に使い、設備機器等の配置も細やかに配慮し丁寧に作られている。

 設備面では、既存躯体をスケルトン化して構造や設備を完全に刷新する「再生建築」の手法により、設備機器の高機能化とともに設備ルートの再構築を行い、幹線ルートをサービス空間側に集約したり、祭事・応接空間においては天井高さを上げたりと、施設の機能性向上と内部空間の魅力向上を両立している。また、本殿との行き来ができる3階を防災拠点化したり、非常用発電機の自主設置や敷地内の井水をポンプアップして利活用できるシステムを構築したりと防災設備も付加している。

 現地審査においては、敷地の高低差を活かした空間構成の巧みさを感じた。記念館に近接した既存樹を残したことが、新しい軽やかなファサードと庭園の一体感を作り出しており、建築がランドスケープに、ランドスケープが建築にシームレスにつながる空間体験は高く評価できる。

 なお、本計画にあたって東郷神社内の建築物の許認可状況などを丁寧に紐解き、実測や図面を復元するなど、今後の運営・将来の計画が円滑に行えるよう基本情報を整理したことも評価に値する。

 地域に愛されている神社の杜の中核施設として、永く使い続けられることを期待する。

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