第30回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

板橋区立美術館

所在地

東京都板橋区赤塚5-34-27

竣工

1979年

改修年

2019年

建物用途

美術館

建物所有者

板橋区

改修設計者

竃学アーキテクツ、活ゥ設計、尾崎文雄

改修施工者

立花建設梶A褐テ川工務店、叶V分電気商会、アネス梶Aコクヨマーケティング
 板橋区立美術館は、東京23区初の区立美術館として村田政眞の設計により昭和54年(1979)に竣工した。以来、公立の美術館として長年にわたり親しまれてきた。毎年恒例となっている「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」はこの美術館の人気のイベントで、更には美術展示のみでなく講演会やワークショップなど地域の文化発信拠点としての役割を担ってきている。しかし、竣工後40年を経過し、機能、デザイン、設備の老朽化により建て替えも含めた大幅な改善策が検討され、最終的には全面改修することとなった。
 改修の設計にあたり設計者は、「この美術館の歴史を現代の美術館としてどう蘇らせるのかをテーマに村田政眞が考えていたこと、赤塚城址の山を背にし、赤塚溜池公園を臨む地に高低差のあるプランニング、そして瓦の大屋根、そのフォルムは残しつつ、美術館の機能を満たすこと、そして積み重ねてきたその歴史をデザインに落とし込む、マッシブな躯体に機能を重ね、軽やかなガラスと襞のある鉄板で重ねる。」と述べている。この言葉に今回の改修で設計者が目指したすべてが表現されている。
 “Layered skin −重なるデザイン−”をコンセプトに表現されたデザインは各所に統一されて展開されている。外壁は既存躯体の上に外断熱とし、その上にガラスとガルバリウム鋼板を重ねた奥行きあるデザインとなっている。屋根には内断熱が施されており、外壁と合わせて熱負荷の低減が図られている。国宝・重要文化財の展示にも耐えうる空調・照明を完備し、展示室には可動展示壁を設置することで、展示内容に合わせた空間を演出できるようになっている。美術品の搬出入動線においては、収蔵庫、荷捌き、展示室それぞれのレベルが異なりそれらを繋ぐ縦動線も階段のみという状況で、展示替えごとに強いられる上下移動は困難を伴うものであったことは想像に難くない。これに対し美術品専用エレベーターを新設し動線を整理することで不都合が一気に解決されている。
 また、美術館としての機能だけでなく、1階に無料で利用できるコミュニティスペース、充分な広さで清潔感のある授乳室を設け、バリアフリーにも取り組み、積極的に幅広い区民に開放を図っている。今まで以上に区民等に親しまれる美術館となった。
 一見、完全建て替えと思えるほど新しい建築となっているが、村田政眞の空間の連続性を踏襲したエントランスホール廻り、アプローチでの印象的な大屋根など間違いなく既存建物をベースにして蘇った建築であることが明快に読み取れる。設計者の意図した「落ち着いた緑あふれる周辺環境に溶け込みながら美術館としての品格のある顔を持つ」ことを見事に達成していると同時に、設計者自身の品格と卓抜したセンスが感じられる建築である。

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