第29回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物 |
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港区立郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜) |
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所在地 |
東京都港区白金台4-6-2 |
竣工 |
1938年 |
改修年 |
2018年 |
建物用途 |
[改修前] 研究所(旧公衆衛生院) [改修後] 郷土歴史館・がん在宅緩和ケア支援センター・子育て関連施設等 |
建物所有者 |
港区 |
改修設計者 |
鞄本設計、大成建設梶A香山壽夫建築研究所、開R東日本建築設計 |
改修施工者 |
大成建設梶A東光電気工事梶Aダイダン梶A且O晃空調 |
港区立郷土歴史館等複合施設は、1938年に建設された、「内田ゴシック」と称されるデザインの外観を有する歴史的建造物であった旧公衆衛生院を港区が保存再生し、新たに郷土歴史館等の複合施設へ用途変更して活用した施設である。 2002年以来閉鎖されていた旧公衆衛生院を、港区は2009年に取得し、住民との合意形成を経て2011年に、建物を保存しながら広く地域の人々が親しみを持って利用できる施設として、活用することを決定した。その後、保存再生に長けた多方面の専門家によるプロジェクトチームや保存活用検討委員会を立ち上げ、文化財としての価値を保存し、現代の施設として積極的に活用するというバランス方針を明快にしている。この文化財保護行政としての区の担当部署と、内田ゴシックの研究者、歴史的建造物保存復元実績のある設計者、試験施工を設計にフィードバックする設計組織からなるプロジェクトチームの組成が、この計画に果たした役割は大きかったであろう。ここで歴史的・意匠上重要な部室を対象とした「保存部分」から、既往の改変により創建時の姿を留めていない部室である「その他部分」に至るまで保存ランクを6段階に分けて設定し、多数の関係者が関わる保存修復工事方針の情報共有を図るとともに、所有者や運営者による建物完成後の維持管理の指針としている。 本建物は建築基準法制定前の建築物であるが、多くの利用者が来館する施設として活用するために可能な限り建築基準法と関連規定に適合させる改修が行われている。耐震補強に関しても、保存ランクに基づき補強要素が配置さている。保存ランクが上位で耐震壁が設置できない部室には、空間の開放性と意匠性を損なわないよう、格子と強化ガラスでできた耐震補強が施されており、改修後の空間に違和感を感じさせない。安全性の向上やバリアフリー化についても、避難階段やエレベーターの設置、手すりや段差解消機の整備等、保存のランクに応じた対応が為されている。一方、内田ゴシックデザインを構成する外装仕上材については劣化調査の上、全面的な補修工事が行われている。外装タイルやパラペット廻りなど継承すべきところは継承し、サッシュ・ガラスなど環境性能に影響するところは性能を確保する改善が行われており、ここでも文化財としての価値の保存と現代の施設としての活用についてバランス方針が生かされている。 ゆかしの杜は、アプローチしていくと内田ゴシック様式による左右対称の歴史的建造物であり、エントランスホールも当時の空間をそのまま閉じ込めた建築であるが、一歩そこを離れると子供たちや区民の方々がいきいきと活動している生きた歴建でもある。歴史的建造物を公共団体が自らの施設として保存活用するという先駆的な取り組みは、今後の近代建築の保存活用における先導となるだろう。 |
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