第29回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物 |
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赤坂プリンス クラシックハウス |
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所在地 |
東京都千代田区紀尾井町1-2 他 |
竣工 |
1930年 |
改修年 |
2016年 |
建物用途 |
レストラン・婚礼施設 |
建物所有者 |
叶シ武プロパティーズ |
改修設計者 |
鞄建設計 |
改修施工者 |
西武建設梶A椛蝸ム組、前田建設工業梶A鹿島建設梶A鉄建建設梶A熊谷組梶A大成建設 |
本建物は1930年、皇族・李王家の邸宅として宮内省内匠寮により設計された建物であり、その後赤坂プリンスホテルの旧館として多くの人に親しまれてきた。敷地全体の高度利用を図る再開発により新たに形成された街の中にあって、この建物は土地の歴史、記憶を伝えていくうえで貴重な存在である。その希少性を生かしつつ、気軽に訪れてもらえる「活きた文化財」としての保存・活用が図られている。 計画にあたっては、@免震化を行い、文化財建物(東京都指定有形文化財)に改変を加えることなく建物の安心・安全を確保する、A価値あるものを保存し、創建当時の姿を尊重した復原と新たな価値の付加により活用する、B旧李王邸を中心にした魅力的な街区を創出するという3つの基本方針が立てられた。この方針に基づいて保存・改修・増築が成され、新たな価値が付加されたレストラン・バンケットとして再生されている。保存・改修に関しては宮内庁に残る資料を参照しながら外壁、内装、建具、照明器具に至るまで創建時の姿に戻すことが目指されている。 本計画において特徴的なことは、本建物の下まで新設建物の地下を設ける計画であったため、その地下工事に先行して仮曳家を行い、新設建物の地下構築後に本設位置に戻すという二段階の曳家を行っていることである。曳家にあたっては先行して1階床下に既存の梁と一体となるPCマットスラブを構築し、マットスラブごとジャッキアップして曳家を行っている。この工事においては、移動時のマットスラブレベルの変位角を1/1000に抑える高度な施工技術が発揮されている。 免震化においては、先述のPCマットスラブと新設建物地下のマットスラブとの間に免震装置を配置することにより、上下で異なる柱配置の制約を受けること無く、最適な免震装置の配置が可能となっていることが特徴である。 外壁仕上げ関しては、全般的に浮きが確認されたため補強のうえ塗り直しが行われている。それに際しては、既存塗膜の下層に見られた創建時のものと推定される部分を参考にクリーム色のモルタルが選定され、特徴的な渦模様も専用のほうきで再現されており、再開発で建てられた他の現代的表現の建築と対比的な姿を見せていて印象深い。 内部の意匠保存に関しては、3段階の保存グレードを設定して保存と活用のバランスが図られている。部屋ごとに保存グレードが設定されたことに加え、仕上げ部材一つ一つにも保存グレードが設定されているので、後々の保全にも参照されることが期待される。 創建時には中庭であった部分に増築されていた厨房等を取り壊して中庭を復原し、それを囲むように新たにバンケットや厨房が増築されているが、空調設備面では、この増築部を利用して水熱源パッケージを設置することで、保存部分改修後の空調負荷増に対応している。また、改修前は無かった外気処理PACと全熱交換機を計画することで、限られた空間の中において内装を痛めることなく機器及びダクトを配置し、気密性の高い外部窓サッシュ(当時の建具形状を参考にした特注ステンレスサッシュ)に更新することで、省エネルギー化が図られている。電気設備面では、文化財としてシャンデリア等の復原製作を行いながらも保存照明を含め照明器具はオールLED化を行い、当時の意匠を損なわず省エネルギー化が図られている。また保存部分の主な設備機器設置スペース・設備展開ルートとして、RC造の上に掛渡された木造小屋組みの空間を活用することによって内部空間の意匠保存が可能となっている。 本建物の保存・改修手法は、計画的にも技術的にも今後参照されるに値するものである。また都市的観点からは、様々な時代の良質な資産を蓄積していくことが都市の魅力向上に繋がることを示しているといえる。 |
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