第28回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物 |
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明治屋 京橋ビル |
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所在地 |
東京都中央区京橋2-2-8 |
竣工 |
1933年 |
改修年 |
2015年 |
建物用途 |
事務所、物販店舗、飲食店舗 |
建物所有者 |
竃セ治屋 |
改修設計者 |
偽.A建築研究室、清水建設 |
改修施工者 |
清水建設梶A間瀬建設梶A滑ヨ電工、新菱冷熱工業梶A日比谷総合設備 |
昭和8年竣工の明治屋京橋ビルは、民間で初めて地下鉄駅と一体化して設計された現存最古の建築で、中央区の歴史的建築物第1号に指定されている。東京大空襲、さらに周辺環境の劇的な変化を乗り越え、80余年の長きにわたり、所有者・用途ともそのままで、創建当時の姿を維持してきたことは、それだけでも驚きであるが、経済活動の最も活発な東京都心部に立地することを考慮すれば、奇跡と言っても過言ではない。 設計者の曾禰達蔵はコンドルの弟子で、彼が率いた曾禰中條建築事務所は、戦前期に最大の組織設計事務所として目覚ましい活動を続け、さまざまな建築の設計を手掛けた。その代表作の一つが明治屋京橋ビルである。その外観は、イタリア・ルネサンス様式と称され、端正でありながらも繁華な通り沿いに路面店舗を持つ建築としての上品な華やかさを備えている。 部分改修を重ねながらも、創建以来初めてとなる今回の大規模な全面改修にあたり、関係者は中央区教育委員会学識経験者と意見交換をした上で、@保存 A復元 B新設 の範囲を的確に決定している。 @保存:特に目が付く点は、東・南・北の三面の外装である。擬石部分(コーニス・レリーフ・窓枠)、花崗岩(基壇)、ブロンズ部分(ブランケット照明)について、仕上げごとにレントゲン検査等を行って健全性を確認しながらクリーニング、色合い調整、補強等を行っている。また内部では、基準階オフィスの柱とハンチのある粱を一定の範囲で保存し、創建時の趣を残している。 A復元:特に目が付く点は外装のタイルである。健全性が確認されなかった既存タイルは撤去し、創建時のタイルの色彩・風合を再現するべく試作を繰り返しつつ、コア抜きを行って既存の層厚を確認した上で、金物併用弾性接着剤張工法を採用することにより、創建時の姿を彷彿とさせる仕上がりが達成されている。これらの検証・決定はすべて学識経験者を交えてなされている。このほか、1階の明治屋ストアの床タイル、エレベーターホールの漆喰壁・天井、床の真鍮目地等もあるが、とりわけ日本建築学会図書館所蔵の竣工図をもとに復元されたという7階明治屋ホールの手摺は、窓際に優美なシルエットを描いていて印象深い。 B新設:耐震性能の向上を図り、地下1階での柱頭免震を採用している。そのため1階床にエキスパンションジョイントを設けているが、道路境界まで最短430oの中で、歩行者の安全を第一に地震時にも金物が道路に越境しないような納まりを新規に開発している。また、再開発棟側の西面に9層の設備ヤードを新設し、室外機とキュービクルを集約配置している。これらは、景観、室内の居住性、建物の省エネ性に十分配慮して設計された結果である。 このように明治屋京橋ビルの改修は創建時の姿を強く意識しながらも、現役の物販店、飲食店、オフィスとして最新の機能を満たすべく企画・設計がなされている。さらに30年の長期保全計画書が策定され、これから先の環境や状況の変化に応じて活用されるよう企図されている。これら一連に見られる施主・管理者の見識の高さは真に敬服に値し、改修設計者と施工者が一方で最新テクノロジーを適切に駆使しつつ、一方で手仕事を含む細やかな配慮を重ねた努力はきわめて高く評価される。明治屋京橋ビルが名実ともに京橋地区の核としてますます愛され、活用されていくよう望むものである。 |
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