第28回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物 |
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鬼北町庁舎本館 |
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所在地 |
愛媛県北宇和郡鬼北町大字近永800-1 |
竣工 |
1958年 |
改修年 |
2016年 |
建物用途 |
庁舎 |
建物所有者 |
鬼北町 |
改修設計者 |
潟戟[モンド設計事務所 |
改修施工者 |
椛揄ェ組、愛媛建設 |
宇和島から東へ約30km、山あいに鬼北町という町がある。人口10,000人の小さな町である。そこに延面積1,750uの鬼北町庁舎がある。最上階の議場に入ると、ハイサイドのステンドグラスがカラフルな光を投げかけてくる。曲面をもつ天井とやわらかな光は、建築史的価値の象徴でもある。今回の改修は単なる工事でなく、町民や職員にも大きな話題を提供した出来事であった。 株式会社レーモンド建築設計事務所(現:株式会社レーモンド設計事務所)の設計監理による1958年竣工の庁舎である。当時まだ実施例の少なかったHPシェルの屋根を設けた、小規模ながらも意欲的に取り組まれた建物である。今回の改修にあたっては、耐震改修・雨仕舞などの問題の解消、バリアフリー対策、OAフロア対応、最新情報通信設備・空調設備の全館設置、複層ガラスによる室内環境改善、トイレの男女別化など一般的な項目が並んでいる。しかし、この改修の大きな特徴としては、鬼北町設計監修委員会の存在があげられるのではないか。学識経験者や建築家で構成された委員会メンバーを中心に改修設計者の設計内容が精査され、元設計の姿を極力守るための知恵と工夫が盛り込まれている。創建当時の意匠を極力残すことを大命題とし、ことこまかく議論を重ねたプロセスが見事である。発注者・設計者・施工者の連携は言うまでもないが、別組織である委員会の厳しい目が、コスト的現実感を踏まえつつ既存建物の持つ存在感を堅持した。そこにプロジェクトに携わる人々の力を見ることができる。スチールサッシの復元、耐震壁の配置、シェル屋根の補修、荷重削減、既存煙突の活用、レーモンド自身が配合した人造石研ぎ出しの床の保存など、徹底的に保存するという思想が関係者全員に共有されている。設備改修に際しては、出来る限り配管配線類を室内に露出させない工夫や、給排気については各階窓面ガラリではなく既存煙突を利用するなど、創建当時の意匠を損なうことのない配慮がなされているのは好印象である。屋外機器も整然と配置され、タンク類は木造壁で囲うなど増築の木造庁舎との一体感も高い。 発注者である鬼北町トップのリーダーシップのもと、「身の丈に合った庁舎」を標榜して改修に臨んだことも興味深い。現在、職員は庁舎内土足厳禁を自ら選択しているという。このプロジェクトを通じて町役場の仕事の進め方や町民サービスの在り方の見直し、職員の業務改善・効率化も実現されている。建築リフォームを通じて、意識のリフォームも行われたようである。 |
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